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四国経済連合会

四国で働く~私がUIJターン就職した理由~

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土佐山地区だからできること × 自分自身に想いがあるからできること

  • NPO法人土佐山アカデミー
  • 2019.09.30
  • 高知県高知市他

高知県の中山間地域である土佐山地区で、地域資源を活かして新たな学びの場の創出に取り組むNPO法人「土佐山アカデミー」。過疎化が進む中山間地域と、新しいビジネスを生み出す活動は、一見すると相容れないように感じるが、土佐山アカデミーの事業は、「土佐山地区だからできること」と「メンバー自身に想いがあるからできること」を掛け合わせることでつくり上げられている。

 

――今までのキャリア、土佐山アカデミーに参加した経緯

佐竹:出身は愛知県の豊川市。大学院を卒業して民間企業に就職しましたが、その会社を退職して高知県越知町でボランティア活動をしたのが、土佐山アカデミーに参加することになったきっかけです。越知町に来た当初は、1年の活動期間を終えたら愛知県に戻るつもりでしたが、地元の人とふれあう中で、「ここで何かやりたい」という思いが芽生え、自治体の地域おこし協力隊に応募しました。さらに、協力隊の研修を通じて土佐山アカデミーの方と知り合いになり、一緒に事業をやらないかと声をかけてもらいました。その内容が自分のやりたいことにマッチしていたので、協力隊の活動を続けながらディレクターとしてアカデミーの事業に携わるようになりました。それから1年ほどは、二足の草鞋で活動していましたが、今は土佐山アカデミーの事業をメインに取り組んでいます。
会社を辞める時点では、明確な目標を持っていたわけではありませんが、大学時代にサークル活動で全国の農家にファームステイしていた経験から、地方の課題や人手不足の窮状をある程度知っていたので、漠然とではありますが「自分の生きる場所」というか、自分のやりたいこと、自分にできることを実現できる場所は地方にあるんじゃないかと感じていました。
地域おこし協力隊は、都会とは異なる感覚や常識が存在する地域で活動することになるので、周囲の人から「大学院まで出てるのに何でこんなことも知らないんだ」と怒られながら、地域の常識を叩き込まれました。愛知に戻って就職するという選択肢もありましたが、協力隊の活動を通じて地域でのおもしろさと悩みの両方を経験した人間として、何かできることがあるんじゃないかと考え、高知での暮らしを続けることにしました。

 

(お話を伺った佐竹さん(左)と下元さん(右))

(お話を伺った佐竹さん(左)と下元さん(右))

 

下元:2013年に東京からUターンし、高知県田野町で2年間、地域おこし協力隊として活動していた際、土佐山アカデミーのワークショップにプライベートで通っていました。その後、協力隊の仕事が忙しくなり、一時期、アカデミーと疎遠になっていましたが、数年後にアカデミーの事務局長と再会したのがきっかけで、アカデミーの仕事を週2~3日程度手伝うようになり、そのまま働くことになりました。
私は、仕事をするうえで「どこで」よりも「誰と」を重視します。その気持ちは田野町にいたときも今も変わりません。高知に帰ってからの6~7年間、自分がやりたいことを自分の力だけでやり遂げるのは難しいことを痛感しているので、同じ思いを持つ人と一緒に働き、助け合っていくことに楽しさややりがいを感じています。
私が「やりたいこと」は一般的な事業とは少し違います。高知と東京で通算10年以上セラピストをやっていて東京でお店も出しましたが、都会で暮らし、社会の歯車のひとつのように動いていると、仕事のストレスや身体に溜まったものを完全に取り除くことは難しいのではないかと感じていました。
そのうち、「生活だけでも穏やかな環境のところに移せないか」「陽が出て落ちるリズムに合わせて四季を感じて暮らせないか」など、人間の生き方の原点に立ち返って考えるようになりました。生きづらさや閉塞感を感じている人たちに「生きやすさ」をどうやって届けるか、これが今の私のテーマです。

 

(アカデミーで地域のワークショップや経理を担当する下元さん)

(アカデミーで地域のワークショップや経理を担当する下元さん)

 

佐竹:私も「どういう人と一緒にいたいか」を考えています。ここで言う「人」には2つの考え方があると思っていて、1つは、「安心して帰れる居場所を作ってくれる人」、もう1つは、「自分がやりたいことを先に実践している人」です。ボランティア活動が終わった後も愛知に帰らなかったのは前者の影響がすごく大きかったですね。都会と山の価値観の違いを理解して受け入れてくれる人たちが近くにいたことで精神的なバランスがとれていました。それと同時に、高知でロールモデルを見つけられたことが大きかったと思います。愛知に住みながら、夏休みに山を訪ねるような関わり方もあると思いますが、それは、土佐山地区に居場所を持ち、やりたいことを実現するのとは大きな違いがあります。ある研修で出会った役場の職員の方が、自ら考え、行動し、やりたいことを形にしている姿を目の当たりにして、「自分にもできるんじゃないか」と感じたことがあります。このときに「ここに残ろう」と心に決めたように思います。今でも越知町との関係も続いていますが、人と人とのつながりは移住してすぐに出来るものではありません。移住の先輩として、移住を考えている人や移住して間もない人などのサポートをしていきたいと思っています。

 

(アカデミーで県の委託事業等を担当する佐竹さん)

(アカデミーで県の委託事業等を担当する佐竹さん)

 

――土佐山アカデミーの設立の意図や想い

佐竹:土佐山地区の方々が長年いろいろな取り組みしてきた中で、一時的な定住施策や観光施策ではなく、継続的に山の暮らしに興味を持ってくれる人を増やす仕組みが必要だと考えた方がいました。土佐山アカデミーは、そこに起業やサステナビリティなど新しい暮らし方に関心を持ったメンバーが集まって立ち上げた団体です。都会の暮らしに違和感を持っている人が、授業や体験を通して自然と共存する暮らし方を学び、体得していく。そうやって「次の100年のために地域の資源を活かし、新たな出会いやアイデアを育む」というアカデミーの基本理念を実践する取り組みを始めました。さらに近年は自治体の委託事業や企業研修なども含めて様々な角度から「地域の課題を資源と捉え、山に人が巡る仕組みをつくる」ことを目指し活動しています。

 

――「生きやすさ」を届けること、今の事業にどう現れているのか

下元:土佐山アカデミーは事業全体を通じて、ここで生活しながら世界や都会の最先端の暮らしとつながって生きることができることを証明しようとしています。例えば、研修事業を都心ではなくあえて土佐山の自然の中で行い、地域の課題を研修やワークショップの教材にすることにチャレンジしています。私自身、都会と田舎の両方で暮らした経験があるので、アカデミーの事業を通じて世の中に「生きる糧」を示したいという想いがあります。

 

――佐竹さんの今の業務内容と、これから取り組みたい事業

佐竹:高知県の産学官民連携・起業推進課では、東京や大阪から高知への「移住×起業」を目指している人を支援しています。それは、「やりたい」と思っているけど、それを実現するための人的ネットワークがない人に高知の事業家を紹介したり、どこでやるか決めかねている人に高知の地域資源に関する情報を提供したりすることで、「移住×起業」を後押しするもので、私もその委託を受けて企画運営する担当者として、アカデミーが持つ資源を活用しつつ、そうした方々の力になりたいと思っています。
このように思うようになったのは、実際に事業を行っている方から「やりたいことはあるけど手伝ってもらえる人がいない」「技術を残していきたいけど後継者がいない」という切実な悩みを聞いたからです。そこで、自分にできることを考えたときに、例えば、技術は持っているけど商品企画や販売方法が分からない人がいて、その人の技術でつくれるものが、私自身がほしいと思うものであれば、私が出資してつくってもらい、それを私が販売するようなこともしたいと思っています。今までは、興味ある人同士をつなぐことに重きを置いてきましたが、最近は、「自分でやる」ことへの関心も大きくなっています。

 

――3人という少人数体制、個人の個性と事業のつながり

下元:アカデミーとしては、メンバーがそれぞれ得意分野で頑張っていけば良いと考えています。大枠は、県や市からの補助事業や地域のワークショップになりますが、メンバー自身が興味を持って情熱を注げることの方が、人に伝わり、訴求力も出てくると思うので、何をやるかは個人の裁量に任される部分が大きいですね。例えば、私は星が好きなので星のワークショップをやったり、空き家や古民家に人が巡るようにするにはどうすれば良いかを考えたり、自分がやりたいことを仕事としてやらせてもらっています。この場所で、志を同じくする人たちと一緒に、誰かの心に響き、その人の生活がちょっとでも変わるような事業をやっていきたいと思っています。

 

(土佐山アカデミーのオフィスからの風景)

(土佐山アカデミーのオフィスからの風景)

 

――土佐山アカデミーのアイデンティティ、ぶれないものは

下元:元々、土佐山地区は旧土佐山村の時代から「学びの村」を村民憲章に掲げています。板垣退助らが自由民権運動や夜学会を行っていた頃から続く、「学び」の流れがこの地に根付いているからこそのアカデミーなんです。また、JR高知駅からたった20分で大自然を感じることができるのはすごいことだと思っています。さらに、鏡川の源流域なので、高知の街に流れ込む水をきれいにするために有機農業が発達しています。土佐山の人は「自分たちがちゃんとせんといかん」という意識が強いんですが、それを声高に叫ぶわけじゃなくて、ほんとに小さいことをすごく丁寧にやる印象があります。そういう精神に触れてもらうことで土佐山の魅力が広く伝播していけば良いと思っています。

佐竹:こうやったら成功するという定石みたいなものはきっとなくて、その土地に根づいている歴史や風土、文化、暮らす人が一体となって「今」に結びつくことで、その土地ならではの価値や魅力が際立ってくると思っています。

 

――土佐山アカデミーを継続していることで生まれた地域との関係の変化

佐竹:今は、土佐山の中の連携を強めようということで、アカデミーと土佐山学舎、夢産地とさやま開発公社の3者が連携して各々のプログラムに関わり、地域の強みや人の流れを最適化することで土佐山に根ざした価値をつくろうとしています。この前、地元の有志の会で住民の拠点施設をつくりたいという話が持ち上がったとき、アカデミーに住民の方が感じている課題を見える化するワークショップの企画やファシリテーションをやってほしいと声をかけてもらいました。自分たちの活動に理解を持っていただき、地域の中に巻き込んでもらえるようになってきたと感じています。

下元:月に1回、土佐山アカデミー通信というものを土佐山地区に全戸配布しています。そこで、薪が不足しているので譲ってくれませんかとか、インターン学生の移動手段がないのでバイクを譲ってくれませんかとか呼びかけると自然に情報が集まってきます。これは、今までの積み重ねが地域の皆さんに認めてもらえている証だと受け止めています。その反面、地域の皆さんが求めていることにアカデミーも応えていかなければならないと強く感じています。

 

(地域に密着した土佐山アカデミーならではの事業)

(地域に密着した土佐山アカデミーならではの事業)

 

――土佐山アカデミーの事業、個人の業務の将来像

佐竹:アカデミー全体で言うと、どこにアカデミーの活動に価値を感じてくれる人がいるのか、どうすればその人たちへ提供する事業の価値を最大化できるか試行錯誤しながら、アプローチを続けていこうと思っています。一方、個人の関わり方としては「当事者になる」ということに尽きます。想いを叶えたい人と一緒に、その人や物の魅力を伝えていきたいと考えています。私が心から良いと思っているものを人々に届けられるよう、走り回って、汗かきながらやっていきたいと思っています。結局、想いを叶えるのは実際にやる「人」の熱量の高さだと思います。

下元:アカデミーとして、まだまだ可能性があると思っています。最初は100%補助事業でしたが、自分たちで仕事を取りに行くことで、ある程度は次の資金を自力で確保できるところまできているので、これからだと感じる部分はあります。
アカデミーの活動自体が、「生きやすさ」につながっていると思っているので、これからどんなことが出てくるかすごく楽しみでもあります。想いを届けたいターゲット層は描けていますし、一緒にやりたい人も具体的にいますので、現時点でやりたいことはやらせてもらえています。
あとは、持っているスキルの一部でも活かしてもらうとか、身体が空いているときだけ手伝ってもらうとか、いろいろな関わり方をしてくれる人が増えると良いと考えています。土佐山アカデミーの理念やコンセプトに共感してくれる人であれば、うまく回っていく気がしています。これからメンバーの入れ替わりもあると思いますが、アカデミーを離れた後でも関わりが残るような形になっていけばと思いながら活動しています。
移住も言ってしまえばただの引越しです。狭い日本の中のことですし、そんなに難しく考えなくても良いと思うんですよね。日々が生きやすくなるとか楽しくなるとか、移住がひとつのきっかけになれば良いと思っています。

 

 

●NPO法人土佐山アカデミーの採用ホームページはこちら

 

制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議

 

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