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四国経済連合会

女性活躍ロールモデル ~四国の企業で活躍する女性~

女性活躍ロールモデル(タイトル)

女性の主体的なキャリア形成により、地域の未来を拓く

  • 株式会社伊予銀行
  • 2023.06.23
  • 愛媛県松山市
  • 本店営業部

ダイバーシティ&インクルージョン推進において先進的な取り組みを進める伊予銀行。人事部長として様々な制度運用等を取り仕切る杉野里佳さんと、営業本部の推進役として営業店経営を支援する森志保さんに、伊予銀行の女性活躍推進の取り組み、当事者として歩んできた女性社員としてのキャリア、これからの女性社員のキャリアの歩み方等について、話を聞いた。

 

〈インタビュー相手〉

■ 杉野 里佳(すぎの りか)さん:株式会社伊予銀行 人事部長 兼 ダイバーシティ推進室長 兼 健康経営推進室長。愛媛県松山市出身。営業店、資金証券部、いよぎん証券(現四国アライアンス証券)、営業戦略部等を経て、現職。

■ 森 志保(もり しほ)さん:株式会社伊予銀行 営業本部 推進役。愛媛県松山市出身。営業店、人事部、個人営業部、CS向上室を経て、2カ店で支店長を経験した後、現職。

 

――杉野さん、森さんが、これまで経験してきた様々な業務

杉野さん、森さんとも、現在のポジションに就くまでに、伊予銀行で様々な業務に従事した。最初に、入社後のキャリアや、仕事のやりがい等について、話を聞いた。

杉野:松山生まれ松山育ちです。高校生のときに1年アメリカに留学しましたが、高校まで松山で育ちました。大学で東京に進学し、就職で戻ってきた形です。就職活動の時はバブル崩壊後の就職氷河期でした。留学経験があったこともあり、外資系企業も受けましたが、就職活動を通じて、社会人として都会で生活することの難しさ、住みにくさを感じるようになりました。「根を下ろして自分らしく働き続けられるのはふるさとだ」と考えるようになり、地元愛媛での就職活動に切り替え、縁あって伊予銀行に入社しました。「仕事で活躍したい」「海外に行きたい」という思いがあったんですが、当時は男性が総合職・女性が一般職として働くのが一般的な時代でもあり、そんなに甘くはありませんでした。また入社して驚いたのは、最初に配属された支店では結婚して働き続けている方がいなかったということです。30歳ぐらいまでに寿退社するのが当たり前という時代でした。

最初は営業店に配属され、2カ店経験した後に、社内の公募制度に手を挙げて、資金証券部に配属となりました。資金証券部は市場運用部門で、女性としては初めて投資勘定運用を担当させてもらいました。その後は、本部部署をいくつか経験し、その間に結婚し、子どもが2人生まれています。2人目の育児休業からの復帰の際に配属となったのが、四国島内で初となる地銀系証券会社(いよぎん証券(当時))の開設準備室でした。会社設立に携わったことが、自分のキャリアの転機になりました。証券子会社でやりがいを感じながら仕事をしていて、この会社で骨を埋めようと思っていたところ、約10年経ったころに銀行に戻ることになりました。銀行に戻ってからは、営業戦略部で計数管理、法人営業企画等を担当し、その後、人事部に異動になり、今年3月から人事部長を拝命しました。伊予銀行では女性初の部長となります。

特に印象に残っている業務は、ふたつあって、ひとつは資金証券部で投資勘定の運用に携わったことです。ひとりで数十億円という大きな金額を動かすこともありました。この時の仕事は強く記憶に残っています。もうひとつが、いよぎん証券(当時)の設立に携わったことです。わずか数人の会社から100名を超える規模の会社に育つまでのダイナミズムを肌で感じる経験をさせてもらいました。会社の成長と共に、自分自身の成長を強く感じた経験でもありました。振り返ると、「女性初」ということが多かったですが、前例や実績のない中でも、その時々の上司が公平に期待して、仕事を任せてくれた積み重ねが、今に繋がっています。

伊予銀行は、女性活躍の面では、まだまだ伸びしろのある組織だと思います。課題があるということかもしれませんが、まだまだできることはたくさんあります。人事部長として、組織を変えていくことに携われるのは、とてもやりがいを感じます。

森:旧北条市出身で、高校、大学とも地元松山に進学しました。就職は同じようにバブル後の就職氷河期で、女性は短大卒が売手市場で、四大卒の女性は採用が少ない状況でした。当時はやりたいことが漠然としていましたが、銀行は様々な業種や個人の人生と触れ合える仕事であり、仕事を通して地域のお役に立ちたい」という思いは持っていました。

入行後、営業店に営業係として配属になり、その後本部と営業店を行き来したことから、営業店と本部の経験が約半分ずつです。

本部では人事部研修、個人営業部での預り資産推進、CS向上室等と様々な分野を担当させていただきましたが、多くは営業推進面で核となる人財育成の施策に携わってきました。ひとつの「仕組みと仕掛け作り」により全店へ波及し効果が発揮される。生み出す苦しさと、新しい施策づくりの楽しさを実感しました。

支店長経験は2か店です。 お金にまつわる相談は人生の相談にも発展するといっても過言ではありません。信頼して相談いただくわけですから、真の課題は何か、どう解決したらよいか、お客さまに寄り添いお役に立てるよう主体的に考え行動できる人財の育成、また活き活きと仕事に取組める環境作りを目指し、周囲に助けられながらもマネジメントに苦悩しました。 現在は営業本部の推進役を務め、営業店の相談窓口として本部施策を伝達し、支店長の支店経営の支援を行っています。20か店あれば20通りのマネジメントに触れることができ、共感や新たな発見の毎日です。

加えて、銀行は地域と共存共栄なので、いかに地域と共に成長し続けられるかに関われる、単純な営利だけではない視点での地域活性化の取り組みにも多数関われ、やりがいを感じています。

 

(お話を伺った杉野さん)

(お話を伺った杉野さん)

 

――入社時に思い描いていたキャリアと、実際に歩んだキャリアの違い

杉野さんと森さんが、伊予銀行で働いてきた期間は、社内や世間から女性社員に求められる役割や期待が変化し、男女の働き方の差が小さくなっていった期間と重なる。その変化と隣り合わせで歩んだ女性社員としてのキャリアは、入社時に思い描いていたものとは大きく異なるものだったという。

杉野:入社時に思い描いていたキャリアとは違いますね。留学経験があったので、将来的にはグローバルにも活躍したいと考えて入社しましたが、当時はまだ女性行員の海外赴任は実績がなく、実現が難しいことに入社後気づきました。ロールモデルもなく、振り返ると将来のキャリアをイメージしながら歩んできたというよりも、目の前にある仕事を一生懸命やる内に、今に至った感覚です。私たちの世代は、キャリアを積み、年齢を経るにつれて、世間や時代の流れが、女性のキャリアを後押しするように徐々に変わってきた世代です。女性の側も、時代の後押しもあって上にあがるほど組織の中で見える景色が変わり、意識を切り替えてきたと思います。私は30歳を過ぎて管理職になり、結婚もしたのですが、そのタイミングで初めて「この組織でずっと働いていく」という覚悟ができたように記憶しています。

子育てしながらキャリアを積むというロールモデルもなかったので、子どもができたらどうなるかという不安は心の中にありました。しかし、第一子の妊娠を上司に報告したときに「おめでとう。でも、仕事は続けるよね」と言ってもらえて、ほっとしたのを覚えています。そうした周りのサポートがあったからこそ、ライフステージの変化があってもキャリアが途絶えることなく続けられたと思います。出産すると、転居・転勤は難しいですし、子どもが小さい間は家庭を優先せざるをえないこともあり、仕事に制限は出ました。

でも、最近では、子どもたちも大きくなり、だいぶ仕事に軸足が移りました。去年10年ぶりに出張に、それも1週間も行かせてもらって。1週間家を空けることなんて子どもが生まれてからなかったんですが、それができたことが自分にも家族にも自信になり、出張も多くなりました。

子どもが小さい間は、もっとやりたいことがあっても、ぐっと身を縮める時期だと考えていました。そんな経験から後輩たちにも、「10年先をイメージしてほしい。今は大変かもしれないけれど、子育てがひと段落すれば、キャリアもライフも諦めずに活躍する自分の姿が見えるはず」だと伝えています。

あと、忘れてはいけないのは家族、特に夫の存在です。夫は、同志のような存在です。夫の理解とサポートがあったからこそ、ここまでできたと思います。

女性はライフプランをキャリアと絡めて考えないと、自分では如何ともし難いタイミングでライフイベントが訪れます。それは若い頃から意識しないといけないことで、もっと言えば配偶者を選ぶときにもそこを意識してほしいです。キャリアを積みたいと考えていても、全国転勤のある配偶者と結婚した場合は、同じ組織でのキャリアが途切れる可能性もあります。そうしたことを、人生の早い段階で、できれば学校教育の段階で考えてほしいですね。娘には、「働き続けたかったら、愛媛で就職しなさい。お母さんが子育て手伝ってあげるから」と伝えています。こうした発想を持ったうえで、ライフプランやキャリアプランを自分で主体的に選択していけるようになるため、高校卒業までのキャリア教育を充実させてほしいという思いはあります。

森:入行時は、仕事は結婚するまでと思っていました。当時は結婚後に働く方はほぼおらず、女性の管理職もごく少数でした。目の前のお客さまにお役にたてることを精一杯やるだけでした

私は一般職として仕事をしていたのですが、30歳の時に総合職にコース転換しました。30歳で総合職としてのキャリアを選んだ理由は、成長の機会が総合職の方が多いと思ったからです。その後多くの学ぶ機会、様々な職務への挑戦の機会を与えていただいたと感じています。

当初は「退職までに代理職になれたらいいな」というくらいの考えでしたが、結婚しても仕事を続けられ、支店長を経験させていただくようなキャリアを積めるとは想像もしていませんでした。

 

(お話を伺った森さん)

(お話を伺った森さん)

 

――管理職になるキャリアを選択・経験して感じたこと

管理職の男女の比率を見ると、日本では女性の管理職の比率が低い。伊予銀行も「女性管理職を増やすこと」は、目指す目標のひとつだという。女性で管理職となるキャリアを選択した杉野さんと森さんに、その背景や管理職の業務を通じて体感したことを聞いた。

森:職位が上がることに対して、「管理職になりたくない」「重責を負いたくない」という女性もいると思いますし、私もそのひとりだったかもしれません。ただ、なってみて思うのは、職位が人を育てるのは本当なんだなと。見える世界が変わり視座が上がるのは管理職になって初めてわかったことです。

杉野:ポジションが上がるほど裁量権、自分で最終的な意思決定ができる範囲・コントロールできる範囲が大きくなります。また、部下が成長する喜びも増えていきます。女性として働く難しさはあまり感じませんでしたが、しかし、私たちの世代は男性と同じような経験を積んでいないところはあるんですよね。私たちは初期のキャリアで一般職としての仕事しか期待されていなかったため、そこでの総合職としての経験が抜け落ちているんです。それは男性側からは見えないことで、その難しさはなかなか理解されないところです。同じような役職に就いたなら同じようにできて当然、そういうキャリアを積んでいたことが前提という世界の中で、経験がないことをどう理解してもらうか。それはやれないと言っているわけではないことも含めて、職位が上がることの難しさを感じるところではあります。人事部長という立場の今、そうした背景にも寄り添って、育成や配置を考えていかなければならないと思っています。

森:一握りの特別な人のみのキャリアだと周囲からみられていることに苦悩したこともあります。私のキャリアがこの先続く女性行員に悪影響を与えたらどうしようと勝手に考えてしまったり、全てが良いようには取られないこともあったり。私にもアンコンシャス・バイアスはあると思うのですが、その息苦しさはありました。「今目の前にあることを、私がお役に立てることをやるしかない」と、切り替えるしかなかったですね。一緒に過ごした仲間が分かってくれれば良いと考えていました。

ここ10年で大きく変わったと感じます。女性活躍推進、働き方改革推進、ダイバーシティ&インクルージョン等に、本気で取り組んだ結果だと思います。2012年に40人だった女性管理職が2022年に207人となり、女性管理職がワークライフバランスを保ちながら仕事が続けられる環境が整ってきていると思います。やはり働き続けられる環境になったことが大きいと思いますね。今は結婚しても辞める必要はないのが当り前ですし、誰にでも、どんなキャリアを選択しても居場所がある組織に変わった実感は強くあり、とても嬉しく思っています。

杉野:当行で女性活躍推進が進んだのは、同時に働き方改革を進め、残業等が少なくなったのも効果が大きいですね。伊予銀行は数年前の就活四季報で、平均年収が一定額以上で残業が少ない会社の全国ベスト100にランクインしていて、金融業界に限定するとその指標ではトップクラスなんです。また、育児休業取得については、男女共に100%を達成しています。

 

(インタビュー中の森さん(左)・杉野さん(右))

(インタビュー中の森さん(左)・杉野さん(右))

 

――これまで取り組みにおいて大切にしてきたこと、これから取り組みたいこと

女性の働き方をより良いものにするために、これまで伊予銀行として大切にしてきたことは何か。また、これまでのキャリアや経験、または今のポジションや業務を踏まえ、これから取り組みたいことは何か。女性がより自律的にキャリアを歩むために大切にしたいことについて、話を聞いた。

杉野:伊予銀行が長い歴史の中でずっと大切にしてきたことは、企業理念である「潤いと活力ある地域の明日を創る」だと思います。伊予銀行が経営戦略として女性活躍やダイバーシティに力を入れているのは、地域の課題である人口減少という問題に向き合うためでもあります。人口減少を止めるには、まず地域が魅力的に、若い世代、特に女性にとって、そこで働き、家族を持ちたいと思うような地域にならないといけない。研修では、女性職員に向けて「あなたたちがうちの制度を使って頑張ってもダメ、あなたたちの旦那さんを変えなさい。旦那さんを変えて、地域を変えていきなさい」と言っています。伊予銀行の女性活躍は、我々が変わることで地域を変えていく、ということをその先に見てやっています。

森:女性活躍を推進するといったような組織風土を変えていくような施策を組織に浸透させる際には、当行ではトップからの発信を大切にしています。特に、支店長が一同に会する会議などで担当役員からメッセージを発し、全支店長やマネジメント層の意識を変え、変わっているんだという雰囲気をつくり出していくことも大切だと思います。トップや担当役員の言葉で直接伝えてもらうことは重要だと感じています。

杉野:制度面では、当行は女性が働き続けやすい環境は整っていると思います。しかし、女性管理職が十分育っているとはまだまだ言えません。ダイバーシティの目的である、多様な意見を取り入れてイノベーションを起こすことを目指すためにも、集団の中に同性が一定の数がいないと声をあげにくいですし、役員登用のためには前提となる女性の管理職が必要です。

森:今は女性支店長が8名いて、その次の役席も多く女性がいます。人事制度も改革を進め自身のキャリアフィールドを選択できるようになりました。今後管理職へステップアップする女性を育成する中で、戦略的に中長期でのキャリア配置を行うことが大切になると思います。積極的に「一皮むける経験」を積んでもらうということです。管理職としてマネジメントしていくために、どういった経験を積む必要があるのか、という発想で考えていく必要があります。

森:私は支店長時代に、面接では男女問わず「何のために仕事をしていますか?あなたのキャリアアンカーは何ですか?」という質問を必ずするようにしていました。聞かれても意外と答えられない人が多いんですよね。自分の意志を持ってキャリア形成をしてもらいたいと考えていて、自分のキャリアは自分でつくっていくと意識するようになると、やらされるのではなくやりたいと思うようになるのかなと。主体的に、10年後20年後、ここで何を成し遂げたいかというビジョンを持って働けるようになれば、やりがいのある仕事になっていくのかなと思います。

個人的には、今後は「地域に貢献したい」という思いが強いですね。仕事を通じて得たものを次の世代につなごうと考えると、地域の金融教育だったり、地域の企業や女性にキャリアの支援をしたり、地域で抱える課題に対して、支援をしていきたいと考えています。

杉野:私は「本物」の女性活躍実現のため尽力していきたいと考えています。「本物」の意味としては、初期キャリアの段階から性差に関係なく正しく期待されて、自らが主体的にキャリアを積み、ライフイベントも経験しながら育った女性が、経営層になっていくという公平・公正な世界をイメージしています。今のポジションに関係なく、残りの時間で私にできることは、今歩んでいる道の先を作ることかなと思います。具体的にどんな道かは、私の中に見えてはいませんが、まだまだ過渡期であるからこそ、どんな些細な道でも後に続く人たちのために新しい道を残すということは、残された時間の中で、退職するまでやり続けないといけないことかなと思っています。

 

 

●株式会社伊予銀行のWebページはこちら

 

制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議
取材場所:本店営業部