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四国経済連合会

女性活躍ロールモデル ~四国の企業で活躍する女性~

女性活躍ロールモデル(タイトル)

男性中心の会社から、女性社員の目覚ましい活躍が数多く生まれる理由

  • 株式会社技研製作所
  • 2024.05.20
  • 高知県高知市
  • 東京本社

「私たちの会社は製造業で、経営の担い手は男性が中心でした。一歩先に進んだのだとしたら、それは・・・」

株式会社技研製作所は、建設工事の基礎である杭の打ち込みにおいて「圧入原理」による工法を世界で初めて実用化した。騒音・振動を無くし、構造物の耐久性を高める建設技術を、世界各地の特に防災・都市再生等の領域で広げている(「これからの建設の新しい『スタンダード』をつくる」に詳述)。また、建設・土木・機械というと、男性中心のイメージを持つ方も多いが、近年の技研製作所では女性社員の活躍が目覚ましい(「人々の安心安全・快適な暮らしのため、新しい建設技術を世の広める」に詳述)。

男性が経営や事業の中核を担ってきた歴史が長く、また男性社員が多い技研製作所において、近年女性社員の活躍が増えた、その変化の背景に何があるのか。同社で女性として初の取締役となった専務取締役の前田さん、執行役員として圧入機械事業を束ねる簑田さん、内部監査室の部門リーダーを務める南さん、お三方から、話を伺った。

 

〈インタビュー相手〉

■ 前田 みか(まえだ みか)さん:株式会社技研製作所 取締役 専務執行役員。高知県出身。技研製作所へ入社後、東京本社での勤務等も経て、2015年に経営戦略部 部門リーダー。2016年9月に執行役員(製品事業)・11月に取締役(製品事業)。2017年に常務取締役。2018年にポジティブアクションプロジェクトを発足。2020年より現職。

■ 簑田美紀(みのだ みき)さん:株式会社技研製作所 執行役員 圧入機械事業。鹿児島県出身。株式会社技研施工へ入社後、各種業務に従事し、3度の出産・育休・復職を経験。2016年に東京総務部 部門リーダー。2018年にポジティブアクションプロジェクト推薦 厚生労働省委託事業イクメン推進プロジェクト「イクボスアワード2018」特別奨励賞受賞。2020年に執行役員(内部監査室)。2021年よりポジティブアクションプロジェクトマネージャー。2023年より現職。

■ 南 睦美(みなみ むつみ)さん:株式会社技研製作所 内部監査室 部門リーダー。千葉県出身。中途で技研製作所に入社後、圧入技術推進室等での業務に従事し、出産・育休・復職を経験。2017年に東京総務課長、2023年3月に総務部長代理 を経て、同11月より現職。

 

「ポジティブアクションプロジェクトの成果の一つがオフィスカジュアル。夏はTシャツで涼しく、冬は暖かいフリースを着て、仕事もはかどり、大好評です」

「ポジティブアクションプロジェクトの成果の一つがオフィスカジュアル。夏はTシャツで涼しく、冬は暖かいフリースを着て、仕事もはかどり、大好評です」※東京本社にて撮影

 

――技研製作所で歩んだキャリア、女性としてのキャリアの転機

最初に、前田さん・簑田さん・南さんの技研製作所入社後のキャリアについて、女性社員として歩んできたキャリアの転機について、話を聞いた。

前田:私はバブル絶頂期の1989年に入社しました。当時は、女性は腰掛けが当たり前の時代で、先輩も続々と結婚を機に退職。自分も結婚してすぐ辞めると漠然と思っていたのですが、創業経営者の北村は、当時の世間的な考えと大きく違う考えを持った経営者でいつも「うちの会社は、仕事に男性も女性もない」と言っていました。20代の入社間もない頃に、「いずれ女性が経営に携わる時が来る。経営会議に入って、聞きよれ」と言われ、週例の経営会議に数名の女子社員がパイプ椅子を持ち込み、厳しい話を部屋の隅で聞かされていました。またある日、北村から「田舎の学問より京の昼寝という言葉を知っちゅうか。1回東京に行ってこい」と言われました。当時、女性で名刺を持って転勤する社員はいなかった中、東京に行き、さまざまな職種を経験させてもらいました。また東京では、国際圧入学会という学会の立ち上げにも携わり、当社はただのメーカーじゃない、北村の宣言どおり新たな業界を創立、その地位を確立するために存在するのだと確信しました。これら北村からの言葉がなければ、結婚して専業主婦になっていたと思います。

簑田:私は東京採用で、工事専門の子会社の技研施工に入社しました。20年近く在籍し、現場に近いところに長く携われたことが自分の武器になっていると感じています。これまでに3回の出産・復職を経験しました。当時は前例がなかったので、不安もありましたが、前田や当時の上司、同僚が温かく迎えてくれ、スムーズに出産・復職できたのが大事な経験になっています。例えば、帰ってきたときに、更衣室の空いた場所に授乳室をつくってくれていて、とても感動し、その周りの温かさのおかげでこれまで続けてこられたと感じています。後日、ポジティブアクションプロジェクトから推薦をもらい、イクボスアワード2018の特別奨励賞を受賞することができました。それは、不安の中で経験した三度の復職がマイナスではなく、日々の成果を正当に評価してもらえたと、とても嬉しかったです。

南:私の場合、転職でこの会社に巡り会えたことが一番の転機です。入社にあたり会社のことを調べると、高知に拠点を置いたまま、東京に進出、さらに世界進出を打ち出しており、この技術なら世界に出ていけると感じ、その一端を担いたいという想いで転職しました。入社後に感じたことは、建設・土木・機械のメーカーですが、女性が発言するチャンスがある、むしろ意見を求められる雰囲気があることです。入社後に自分の考えを素直に言えないことが一切なかったのはすごいことだと思います。最初は簑田の下で働き、その後前田から引き継ぎ国際圧入学会の事務局を8年勤めました。そのときに妊娠したのですが、産休・育休を取得し復職しても大丈夫だと周りの社員の方々のバックアップを受け、安心して産休に入り復職できました。この会社をさらに世界に広げたいという想いが強まりました。

前田:40歳のころに課長に昇格昇進した時のことは強く記憶に残っています。日本の世の中全体がそういう時代だったと思いますが、「新しい課長に、君かもうひとり(男性)かで悩んだが、もうひとりにする」と言われ、自分の強みはサポート役だと自覚していた私は、そのこと自体に不満なく、何の気なしに「そう決めた理由だけ教えてもらえますか」と聞くと、「彼の方が年上で社歴も長く、男性上司の方が部下もいいだろうと考えた」と言われました。 そこで「おや」と感じました。年齢は確かに彼が上だが、社歴は私の方が1年長かったことが一つ。また男性上司の方が部下にとって良いという話に、「どうして男性が良いと思われたかだけ教えてください」とさらに聞くと、きょとんとした顔をして「当たり前やろ」。 それで「承知いたしました。それでしたら当社の募集要項に『女性は課長になれない』と記載しなければ。昇進昇格を目指す女性がいるかもしれません。事前に告知すべきです」と話しました。自分が課長になる/ならないは重要ではなく、当社にはこういう世界はないと信じていたのです。このやりとりは名誉会長の北村とのものでしたが、翌日に「やっぱり変える」と。「簡単に変えたらダメじゃないですか」と言うと「本当に人の人生にかかわる大事なことなのに、社歴や年齢を調べてなかった。すまなかった。それと一晩よく考えたが、仕事が出来さえしたら男女は関係ない。受けてもらいたい」と言われ、「嫌です」と言うのは違う、ありがたいことだと思わねばと受けました。自分にとってそれまでで一番辛く、壁を感じたことであると同時に、何かが覚醒した感じがしました。当時の社長が人事を撤回する場面はありえないことで、それでもこの人は「是々非々」を貫いてくれた、この人と会社に一生ついていこう、尽くし甲斐のある人と会社に巡り合えて幸せだと思いました。大げさに聞こえるかもしれませんが、この事がなければ今はありません。

 

(お話を伺った前田さん)

(お話を伺った前田さん)※東京本社にて撮影

 

簑田:私のキャリアの中で大きく影響をうけた人は、前田です。これまで会社も経験していないことを前田が改革を進めるその姿に我々後輩は勇気づけられています。私自身ターニングポイントとして、厚生労働省イクボスアワード授賞式と社内の幹部職アセスメントの試験日程が重なったことがありました。会社の代表として表彰式に出席すべく準備していると、海外にいる前田から、『表彰式へは代理出席がかなうが、未来のポストを勝ち取るための資格試験への挑戦はあなたしかできない。表彰式はあきらめて合格を獲りに行け』と、 私のキャリアを重要に思ってくれる声がけがあり、本当に目が覚めました。大事なことは未来であり、そこに導いてもらえる上司の存在がうれしく、その言葉は、私の会社人生の転機でした。そもそも男性が多い組織の中で、女性が活躍するためには、女性自らの視点を伝えないといけない場面があります。その場所をつくるためにも、自分も後輩たちのキャリアをより大切にするよう心がけています。

南:私は、ドラマチックな経験があるというよりは、逆にたくさんの恩恵を感じています。中途入社者の私がいろいろなことを経験できる機会をつくってくれました。例えば、プロジェクトひとつとっても、女性がチームに入っているかどうか、同じ土台で経験させた方が良いものは必ず先回りして掛け合ってくれていて。後に続く者にチャンスを与えてくれていることを実感するからこそ、「やってやろう」という気持ちが芽生え、それが女性のキャリアアップのためにすごくプラスに働いています。アンコンシャスバイアスを良い意味で持たせないこと、持たせないように気づかせることが上手いと感じます。また、前田も話していましたが、上位職者であっても、問題があればすぐ気づいて認め、是正してくれることが多いです。前田や簑田は時間をかけて変えてきましたが、後輩はより短いキャリアで経験を積ませてもらえています。

前田:アンコンシャスバイアスはどこにでもあります。例えば、同じメーカーでも女性用の化粧品のメーカーと建設機械のメーカーでは生業自体が違います。建設機械メーカーである当社では、私が入った頃は女性が就ける職種が限られ、デスクワークがメインでした。

簑田:男性は仕事、女性は家庭、というアンコンシャスバイアスは自分も含め誰しも持っていたと思います。当社は2018年まで男性の育休の取得者がゼロでした。自分も出産して育休を取得するのは女性だと思っていましたが、そこに男女のギャップがあるとメスを入れて変えていけたのは、常によいことを取り入れるという創業経営者の北村の考え方が社員にも伝わっているためで、これからも時代とともに改革がすすみ、アンコンシャスバイアスも無くなっていくと確信しています。

前田:日本の企業は本当に頑張っていると思いますが、海外の方がもっと進んでいて、日本はまだ置いていかれているところがあります。私たちの会社も、どちらかといえば保守的でさまざまな変化への対応は後回しになっていましたが、2015年に自分が執行役員に就任しました。ステークホルダーの目があるなか、製品事業のトップを女性の執行役員に任せることは、メーカーとして大変勇気のいることです。機械の設計・製造の知識が乏しくとも、できないと言うわけにはいかないので必死で努力しました。全ての部課長とよく話をして、彼らの全面的協力のもと、困りごとを一つずつ解決しながら、働きやすい、明日も会社に行きたいと思える環境をつくることに奔走しました。彼らのおかげで、製品事業の働く環境はすごく良くなりました。自分を選んでくれたということではなく、会社が男性と同じタイプではなく新しいタイプの役員をつくろうとしてくれた挑戦心が当社のすごいところです。当社が一歩先に進んだとしたら、それはやはり発明の歴史から始まった当社の根幹である挑戦心が何事においてもきっかけになっています。

簑田:新たなことに挑戦する社内文化は元からありました。2018年にポジティブアクションプロジェクトを前田が発足して、私が二代目のリーダーを務めています。プロジェクトは、女性だけではなく、男性も含めた社員全員が幸せになるための経営課題に取り組んでいます。プロジェクトを通じ、男女の共創を実感できましたし、自分たちがその一助になれたことはうれしいです。

南:プロジェクトを発足させたのは前田ですが、後輩も与えられたチャンスを理解し、いかに経営課題を解決していけるか、現状を把握し提案する力が身につき、成果をあげる中で、キャリアにおける自信につながったと思います。

 

(お話を伺った簑田さん)

(お話を伺った簑田さん)※東京本社にて撮影

 

――ポジティブアクションプロジェクト、技研製作所の近年の取り組み

ポジティブアクションプロジェクトは、2018年に女性の活躍推進・本物の女性管理職を育てるために発足した。男性育休取得推進(手続きの整備、支援金制度の構築や拡充、説明会やセミナー等)、介護休業体制強化、健康経営推進、SDGs推進、カジュアルスタイル推進等、様々な経営課題に取り組んできた。

 

働き方改革と女性の活躍推進

前田:コンセプトは、「本物の女性管理職を育てることと男女ともに活躍できる環境をつくること」でした。管理職のポストに既存のタイプを求めると、女性からは圧倒的な現場の経験値と専門知識の乏しさから手があがらず、既にそういうものを持っている男性に任せたいという声が大多数です。しかし、新たな管理職像として枠を広げ、野球部やサッカー部のマネージャーのような管理職を育てています。監督やキャプテンと共にマネジメントのできるタイプの人がいることで、会社は必要な判断を迅速正確にでき、社員の職場環境が整うことで大きな相乗効果が期待できます。

簑田:プロジェクトの取り組んでいる課題の中で、特に大きな成果として、男性育休の取得推進があげられます。

 

男性育休取得推進(実績)

 

男性育休取得推進(現状把握)

前田:男性育休について、私は取得率100%が必ずしも良いとは思っていません。四国では、祖父母が近くに住んでいて、周りに子どもを見てくれる環境がある人が多くいます。たとえ、取得率が50%でも、社員が満足できれば良いと思います。2人目・3人目の子どもがいる家庭は当然お金もかかりますから、夫婦揃って働きたいという場合もあって、各家庭の状況に合わせて、選びたいと思える選択肢が揃っていることが重要です。

南:社内アンケートで育休を取れない理由の一位は「職場の人に迷惑をかける」でした。そのため、各所属長に協力してもらい、職場の属人化を解決するために業務の棚卸を実施しました。ここで活躍したのが、イクボスアワード2020で同時にグランプリを受賞された積水ハウスさんの面談シートです。授賞式の際に拝見して、使わせてもらえるようお願いしました。こういう他社さんとのやりとりも楽しいです。後述の給与のExcelのシミュレーターも、全国で希望してくださった皆さんに使ってもらっています。

 

男性育休取得推進(現状把握)

前田:育休取得対象者を含む全社員に向けた説明会を実施し、いつでも相談できるようになりました。また、各部門にいるプロジェクトメンバーが職場の上司、仲間に「育休を取るの?」ではなく、「育休はいつ取るの?」を合言葉に、繰り返し話して回ってくれました。そういうことは女性の特権、良いと思うことに関して縦横斜め関係なくフラットに話ができます。経営陣に対しても、取締役会で正式に決議したうえで当社のウェブサイトに男性の育休取得推進の宣言を掲載しました。社員はバックに経営者がいるということで安心できたと思います。

 

男性育休取得推進(給付金シミュレーションツールの開発)

簑田:こちらは、手取りを入力すると、国からの給付金と給与を合算していくらもらえるか、簡単にシミュレーションできるExcelシートをメンバーが作成してくれました。夫婦でしっかり話をして理解したうえで休暇を取得してもらいたいです。

 

男性育休取得推進(育児休業支援金:第一フェーズ)

 

男性育休取得推進(育児休業支援金:第二フェーズ)

簑田:2021年に育児休業支援金を創設し、3か月以上の取得者には上限15万円を支給、2023年には最大60万円・12ヶ月分に拡充しました。また、法律で女性は産後8週間、就業が禁止されており賞与算定はありませんでしたが、上限4週間は男女どちらにも賞与支給すると決め、これも社員の心強い後ろ盾になっているという声を聞きます。

前田:拡充にともない、経営陣からは「生産性を上げろ」という話から始まりましたが、「それとは次元が違う。待ったなしでやらないと、生産性を上げている間に世の中の変化に置いていかれる」と繰り返し議論を重ねる中でようやく承認を得ることが叶いました。本物の管理職になるためには、このようなプロセスが重要なのだとプロジェクトメンバーにとって勉強になりました。

簑田:経営陣には経営者としての考えがあります。そういうことを理解し協議を重ねたうえで施策が打てるところが、私たちの会社の良いところだと思います。

 

女性管理職の増員実績

前田:現在注力しているのは、女性の管理職の増員です。国は2030年までに社会のあらゆる分野で女性の管理職を30%にと言っていますが、当社は女性従業員の母数が19.3%(2024年4月現在)のため、まずは男女同比率で管理職を増やすことを目標にしています。数字合わせで女性を無理に昇進昇格させると組織が潰れます。グループ全体の協力を得ながらまずは男女同比率を達成すべく取り組みを進めます。

――なぜポジティブアクションプロジェクトが社内に浸透するのか

社内で様々な取り組みを推進したとしても、それが社内に十分に浸透せず、十分な成果につながらないことも多い。技研製作所のポジティブアクションプロジェクトの様々な取り組みは、なぜ社内に浸透し、成果につながるのか。その要因について、さらに深掘りし、話を聞いた。

前田:本物の女性管理職を育成するためのプロジェクトなので、メンバー全員に管理職として活動してもらいました。管理職の仕事をしたことがないので、かつての私がそうであったように出てくるアイデアは稚拙で、時間軸もバラバラで、最初は骨が折れました。例えば賞を獲りに行くと目標を定めたチームがあれば、申請書類に現役経営者としての視点を注入し、メンバーといっしょに完成させました。工程表はしっかりチェックし、予算を取りに行くのも、経営陣へのプレゼンもいっしょに進めました。メンバーが頑張り切れるのは、一人ではなく同じ志をもつ仲間がいること、そして、会社のインナーブランディングが目に見えて高まり、成果として手ごたえを実感しているからです。 そのなかで彼女たちを絶対ひとりにせず、複数名でチームをつくり、得意なことができる状況をつくりました。管理職とはチームを率いてその力を発揮するもの、人と協働する経験は極めて重要です。また、成果と評価はセットです。評価がなければ、何のためにやっているか分からなくなります。成果を出したメンバーの人事考課では、本業以外のプロジェクトの成果も必ず反映します。プロジェクトの良いところは短期間で、成果が明らかになるので、年1回の人事考課で評価するよう徹底しました。 人事審議会で、全社員の成績が一覧になる中、所属長と直接話をしてすり合わせします。管理職同士が理由も含めて丁寧に話し合い、公平に評価します。結果的に、成果が評価につながり、管理職が増えたことが一番の成果です。去年初めて、育休取得推進チームが社長賞を受賞しました。社内評価でメンバーのモチベーションが上がり、男性がそこに価値を見出してくれたことがありがたかったです。本物の管理職を育てることと同様に、男女がシナジー効果を発揮し同等な効果が得られなければ、どちらかだけが活躍しても会社の発展はないと思います。

簑田:プロジェクトが社内に浸透したのは、経営陣からの発信が社内の隅々まで行き渡っていることと、ロールモデルが増えてきたからです。例えば、育休取得から復職して良いキャリアを歩む社員、昇格・昇進した女性の管理職等、憧れ・見本となる社員が生まれています。そして、仲間意識の醸成です。ポジティブアクションプロジェクトだけでなくDXやその他のプロジェクトでも同じで、チームで仲間意識を生み、部門横断で意見を出しやすい関係ができ、縦割り組織に横串・斜め串が刺さったことが、加速度的な成果につながったと思います。

南:どのプロジェクトでも、現状把握と、原因を考えた上で対策を立てて実行すること、PDCAを回すことは徹底されています。課題を把握・分析し突き詰めていく力や、プロジェクトを回す力が、社員全員に備わってきていると感じています。

前田:経営陣はこのプロジェクトを通じて、社員が今何を求めているかを理解することができました。社員は、会社のかじ取りをしている経営陣がいかに社員の幸せを願っているのかを実感できました。

簑田:このプロジェクトでさまざまな成果が生まれています。最初に全社員を対象に意見を求め、耳を傾けたところが大事だったと思います。

南:様々な経営課題を解決するにあたり、女性からの視点だけでなく男性目線の意見を取り入れ、双方が納得できる施策が実施できたことが、成功の要因だったと思います。

 

(お話を伺った南さん)

(お話を伺った南さん)※東京本社にて撮影

 

――これから技研製作所がさらに注力していくこと

最後に、様々な取り組みを推進してきた技研製作所が、これからさらに注力したいと考えていることについて、話を聞いた。

前田:本業の新工法提案企業の活動、またメーカーとしてのものづくりには当然注力していきますが、社内では全ての仕事に希望する人が就けるよう推進します。例えば、女性ができる仕事/できない仕事という固定観念を払拭し、前例がないとしても挑戦のできる組織にしたいです。先の人事異動で、簑田が女性初の国内外の販売部門のトップに就き、南は内部監査室でグループ全体の会社運営の健全性を検証・評価し、経営目線で課題解決に努めています。また、女性の場合、妊娠・出産・産休・育休の期間がマイナスにならないようにしなければなりません。

簑田:私が子育てで休むとき、前田から「出産、育児も大きなプロジェクト。堂々と行ってきなさい」と声をかけられました。休んで子育てをすることも、社会課題を解決するプロジェクトというメッセージです。女性男性関係なくみんなが健康でパフォーマンスを発揮できる会社にすることが大前提で、その上で女性と男性の特質を上手くコラボレーションさせて力を発揮できる組織を目指していきたいです。私も自分を磨いて、見本となる人間になりたいと願っています。

南:これまでたくさんの賞をいただき成果は華々しいですが、例えば、人数の少ない小規模な子会社や部署などでは休暇を取る社員の属人化の解決が容易ではありません。誰もが同じ条件で働きやすい会社、組織づくりが肝要です。そういった目線で現場の声を聴きながら問題の解決にきめ細やかに取り組んでいるところです。

前田:ポジティブアクションプロジェクトは頼りになる簑田・南に一任、今後私は海外の駐在員とナショナルスタッフのために次のフェーズを展開しなればなりません。海外拠点は小規模であり、一人一役ではなく、二役・三役できるような、多能工社員を育てることをスタートしました。海外拠点を回ると日本のような男女の役割意識がうすいことを強く実感します。役割を明確化すれば、その機能を果たすことができると男女も国籍も関係ないので、機能を決め、それに見合う処遇を整備します。ステークホルダーのみなさまも、当社の海外展開に期待してくださっています。職場は日本だけじゃない、手を挙げさえしたら国内外どこでも誰でも働ける会社にしたいです。

簑田:会社の考えは、前田が話した通りで、我々もそこに向かうために一枚岩になっています。その中で、私個人としては、若者の働きがいと働く環境が両輪になっていないと上手くいかないと考えています。働く環境は当然ながら、本業でも社会課題を解決し、当社にしかできない技術で世界へ進出して挑戦する働きがいもとても大切です。女性男性関係なく、その両輪がバランスよく整備されるよう力を注いでいきたいです。

南:改めて今後私が注力していきたいのは、簑田の言う通り、働きがいと、働く環境の整備です。今の若手社員が管理職に魅力を感じられることが大事です。これらが揃うことで、彼らのキャリア形成につなげたいです。若手とのコミュニケーションで大事にしているのは、先入観を持たないことです。いろいろな世代間のギャップがあるので、発言を否定する前に、その意図を深掘りして聞くようにしています。また、若手から言いやすい環境をつくることです。いかに発言や相談をしてもらえるかが大事で、聞く姿勢を持つことです。お互いに、何も言わないのではなく、大事なことはコミュニケーションの中で埋めていくこと、共に成長していくことです。

前田:現在社内では全員を「さん」付けで呼んでいます。仕事をする中で、上下は関係ないと思っているので、新人だろうが国籍が違おうがフラットに、ハートがつながればいいと思っています。

簑田:最近、部下から報告があったとき、「そこまで準備してくれてありがとう」と伝えたところ、「久しぶりにありがとうって言われました」という会話がありました。自分も同僚や上司から感謝の言葉を言われるとうれしいですし、これからもその気持ちを大事にしたいです。躊躇なく相手を褒めることができる我われ女性から発信していければと思います。 また、これからは、個性のある個人が活躍できる会社になるよう尽力したいです。そこから、チームワークも育て、当社はこれからも新しい挑戦に力を入れていきます。相手の考え方も認めて、世の中の動向も取り入れながら社会課題を解決するため社員が力を発揮できる環境をつくることに力を入れていきたいと思います。

南:内部監査室では、海外を含め多様な人材に接することができる立場にあり、大所高所から全体を見ることができます。グループの発展のために、職場で得られる様々な意見を次の一歩につなげていきます。

 

 

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制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議
取材場所:東京本社