
家庭や子どもが理由で辞める人をゼロに。
社員が直面する課題ひとつひとつに真摯に向き合う。
- 株式会社穴吹トラベル
- 2024.09.30
- 香川県高松市
- 本社
「社員それぞれが異なるライフイベントや状況に直面する中で、みんなが仕事を続けられるためにはどうすればいいか。その都度、『こんな制度をつくればどうだろうか』と話し合いながら進めてきました」
「辞めたくないのに家庭や子どもが理由で優秀な女性が辞めざるを得ないというのは、絶対に避けたいんです。どうにか続けられる方法を模索する、それだけですね」
四国発着の豪華客船クルーズやチャーター便で行くワンランク上の企画ツアー、四国八十八ヶ所の巡拝旅行、介護が必要な方が介護添乗員と行く介護旅行、四国や瀬戸内の魅力を海外に発信する富裕層向けインバウンド旅行等、様々な旅行事業を展開する株式会社穴吹トラベル。上記の言葉は、同社の阿部有香社長から語られたものだ。株式会社穴吹トラベルでは、社員が直面する様々な課題に対し、その人が仕事を続けられるよう最優先に考え、ひとりひとりに合わせ非常に柔軟に制度や業務を運用している。女性社員は結婚や出産を経て100%復職しており、個別の対応をしても不公平感を生むことなく、「次の世代や後輩のため」「家庭や子どもが最優先」と考えることが当たり前に浸透しているという。今回、阿部社長と、同社で産休・育休を経験し、復職後に係長を務める赤松さん・植原さんに、家庭や子育てとキャリアの両立、株式会社穴吹トラベルの柔軟な働き方や社風が実現する背景等について、話を聞いた。
〈インタビュー相手〉
■ 阿部 有香(あべ ゆか)さん:株式会社株式会社穴吹トラベル 代表取締役社長。ツアー企画の新規事業の立ち上げや、営業部門等の業務を経験した後、2010年に執行役員企画部長(あなぶきグループ事業会社初の女性役員)。インバウンド事業の海外展開等に従事し、取締役部長を経て、2017年より現職。
■ 赤松 孝子(あかまつ たかこ)さん:株式会社株式会社穴吹トラベル 経営企画ES推進室 地方創生インバウンド事業部 係長 兼 手配マネージャー。中途で入社後、介護旅行事業の立ち上げ等を経験し、グループ会社初の産休・育休・復職を経験。2020年はコロナ禍に伴い出向を経て、2023年に復帰後にインバウンド手配業務を初めて担当し、2024年より係長として外国人メンバーを取りまとめる存在へ。また、ES推進室として経営のサポートも担う。
■ 植原 安祐美(うえはら あゆみ)さん:株式会社株式会社穴吹トラベル 企画営業部 営業課 係長。新卒で入社後、ツアー企画を担当し、社内MVP等の数々の成果をあげる。3度の産休・育休・復職を経験。2023年に第三子の出産復帰後に係長に昇進。同社初の母親兼営業課係長として、一般団体営業(修学旅行等)に従事。

(インタビュー中の赤松さん(左)、阿部さん(中)、植原さん(右))
――産休・育休を経てのキャリア形成。ひとりひとりのキャリアを支える社長の想い。
赤松さんは、結婚を機に退職する方が多かった頃に、あなぶきグループ会社全体で初めての産休・育休・復職を経験した。当時は様々な難題・苦労があったと語る。そこでの試行錯誤が、同じく産休・育休・復職を経験する植原さんら、後輩が活用する制度等につながっている。また、阿部社長からは、ひとりひとりのキャリア形成の背景に込めた想いについても語られた。
赤松:元々旅行が好きだったこともあり、27歳のときに中途採用で入社しました。旅行の知識はほとんどなく、最初は訪問営業を担当しました。結婚を機にキャリアを考え直すタイミングがあり、当時20年以上前は結婚を機に退職する方が多かったのですが、あなぶきグループ全体で初めて、産休・育休・復職を経験しました。最初は退職するつもりで会社に伝えたんです。ただ、自分の性格的に、ずっと家で子育てをするのは合わないと感じて、当時の上司と相談し、出張・添乗がなく、定時で帰れる契約社員として復職しました。当時は仕事を代わってくれる人がいる環境ではなく、仕事を定時に切り上げるために、家族等頼れる人を最大限活用しました。子どもや家族の体調不良があっても、仕事を代われる人がおらず会社を休めない、でも子どもを預かってくれるところも見つからない、というときが精神的に大変でした。また、保育園に入った後も、迎えの時間があるのに急な仕事が入ることがあり、どうにか周りのサポートがあって乗り越えられました。誰も取得したことのない産休・育休を取得したことは大きな転機だったと思います。誰も相談相手がおらず、まだ働き方改革等も進んでいない時代だったので、不安でしたが、会社のサポートがあって無事乗り越えられました。後輩の女性社員が私に続いて制度を活用し、結婚や出産と仕事を両立する姿を見て、頑張って良かったと思います。
その後、介護旅行という介護がないと旅行に行けない方をお連れする新規事業の立ち上げに携わりました。介護関係の資格と、トラベルヘルパーというバリアフリーではない場所へお客様をご案内、サポートする為の資格も取得しました。身体の不自由な方やご病気の方やご高齢の方、様々な方に対応する中でケアの経験や知識を得られましたし、涙を流しながら喜んでくださった姿を見たときは、この仕事をしていて良かったと心から感じました。その後も子育てと仕事の両立を続けながら、2020年には新型コロナウイルスの影響で業務が減り、全く違う業務で、グループ会社を通じ通信会社に出向しました。お客様センターでスタッフの方や企業の方と接する中で、客観的な視点で自社も他社も見られるようになり、成長を実感できました。再度、株式会社穴吹トラベルに戻って、再び全く異なる業務のインバウンド課に配属になり、今は外国人メンバーに囲まれて仕事をしています。
阿部:20年以上前、赤松さんは、あなぶきグループで最初の産休を取得されました。当時、私は違う部署でしたが、その直前まで同じ課で一緒に営業をしていました。赤松さんの話から、当時と今の「お母さんでリーダーを務める方」の違いが見えると思います。今だと、なぜ正社員から契約社員になる必要があるのかという話になりますが、20年以上前の旅行業界の営業では、海外添乗までしていた優秀な女性でも結婚や出産で辞める事が普通だった中、会社として特別なサポートもまだない中で、本人の頑張りで残ってくれました。赤松さんが先駆者になってくれたおかげで、今は全ての女性社員が結婚や出産を経て100%戻ってくるようになったんですね。いろいろな経験を積まれて、20年前から今まで最前線で体験したことを後輩に還元してくれ、今必要なことについて意見をくれて、続けてくれて本当に良かったと思っています。今もインバウンド事業を担当しながら、経営企画やES推進も兼務し、特に女性社員をサポートしてくれています。
植原:私は、生まれも育ちも香川県で、大学時代に大阪にいた後、地元で働きたいと考えて香川に戻り、新卒で入社しました。入社後は、ツアーの企画やチラシ制作を担当しつつ、5年間程は添乗員としてもツアーに同行していました。結婚して子どもが3人いるんですが、産休・育休・復職を3回繰り返し、昨年の復職時にツアー企画から営業課へ異動し、今は修学旅行や一般団体の旅行の企画を担当し、新しいことに挑戦させてもらっています。 やはり3人の子どもを育てながらの仕事は大変ですね。私は企画をするのが好きで、以前は朝から夜中までいろいろ考えられたのですが、そういう時間は無くなりました。第一子が産まれてからは、6時間の時短勤務となり、16時には帰宅しているのですが、仕事の時間の使い方が大きく変わりました。夜は子どもといっしょに寝てしまうので、朝に少しでも早く起きて、なるべく自分の企画や勉強の時間を取るようにしています。
阿部:企画は決まった時間で完結する仕事ではなく、本を読んだり勉強したり、本人が好きなだけ深掘りできる仕事です。当社の営業や企画は、目標数字を持って、自ら開拓し稼いでいくイメージの仕事につき、時間管理がとても難しいと思います。先ほど彼女はさらっと言っていましたが、実は企画から営業という異動は、普通はない人事なんです。植原さんは、当社の基幹事業であるツアー企画課で日帰り旅行の企画をずっと担当してきた、いわゆる「エース企画パーソン」。やんちゃな男の子が3人もいるお母さんである彼女が、育休明けに16時半に退社する時短勤務をするなら、慣れ親しんだ仕事を続けてもらうのが普通です。ただ、この先の将来のことを考えると、もっとキャリアを積めると考えました。彼女の熱意やリーダーシップを見ても、将来的には役員を目指せる人材だと期待しています。そのためにも若い内に違うセクションの経験をしてほしくて、自分の思い通りにはいかない、お客様に振り回されることもある「営業」という仕事も経験してほしかったんです。異動を打診して、正直きついかもしれないとも伝えましたが、「やってみます!」と言ってくれて。本当に大変だと思いますが、チャレンジをしてくれて、この経験が将来にきっと活きるだろうと思っています。旅行会社の営業で、さらに子ども3人のお母さんという方は、中々いないんじゃないでしょうか。
赤松さんも、大手企業への出向は全く違う職種で最初は大変だったと思いますが、2年経つとマネージャーも任されるぐらいの評価になり、活躍していました。コロナ禍では旅行の営業サポートは仕事がゼロに近い状態でしたから、彼女的には「もう旅行業界に戻る事はないだろうな」という気持ちでの出向でしたが、コロナ禍の大変な時期を乗り越え、成長してトラベルへ戻って来てくれました。そして私が「(以前の仕事とは全然違う)インバウンド課で外国人メンバーを部下にマネージャーを任せたい」と伝えたところ「やってみたい」と言ってくれたのです。
家庭での子育てと両立しつつ、新しい仕事にも前向きにチャレンジしながら、限られた時間で成果を出してくれている…2人とも本当にすごいです!

(お話を伺った阿部さん)
――出産や子育てと、仕事でのキャリアアップの両立。
赤松さん・植原さんは、出産や子育てと仕事でのキャリアアップを見事に両立している。両立をどのように実現しているのか、赤松さん・植原さんの考えや、阿部さんからは両立を支える会社や経営の取り組みについて、話を聞いた。
赤松:女性だからといってキャリアアップの障壁になるようなことはなく、自分の働き方のスタイルで自然に積み重ねられているイメージです。子育てとキャリアアップの両立が難しい環境もあると思いますが、当社は社長が特にそうですが、やりたいことがあればやらせてもらえるので、やりたい気持ちさえあればキャリアを積んでいける環境だと思います。
植原:私もそう思います。育休を取得したらゼロからのスタートになるのかなと思っていましたが、そんなことはなく、戻ってきた後も同じ仕事で上のポジションを任せてもらえ、働きやすい環境だと思います。
阿部:確かに「時間」だけを捉えると、もしお子さんがいなければ2人共もっと思い切り働けるとは思います。でも、子どもを育てながら、限られた時間でいかに効率良く仕事をするかは、単純な仕事の能力以上にすごいことだと思うんです。そういう経験を持つ人たちが、パートさん含め当社の女性社員には多くいます。「子どものお迎えがある」「早く帰ってご飯をつくらなきゃ」など日々考え、限られた時間で仕事の成果を出してくれるので、能力も高く人間的な幅もある方が多いと感じています。そして、子育ての経験がある方は、マネジメントにも活かせる部分がたくさんあり、向いていると私は思います。赤松さんも植原さんも、仕事と家庭、両方のキャリアを高めてきたからこそ、笑顔で仕事ができるんだと思います。
私は、女性の管理職比率を上げる等は当たり前のこととして、子育ての経験もある女性がどこまで管理職としてやれるか、役員や社長になれるかを示せる会社にしたいと思っています。当社は昔から男女の差自体はあまりなくて、むしろ遅くまで残って働いているのは女性ばかりという不思議な風土でした。女性活躍というより、ひとりひとりが好きな仕事を続けてきた中で、結婚し、子どもが生まれ、それでも辞めなかった赤松さん達がいて、私が社長になってからそれに続く形で作ってきた制度があり、みんなが長年かけて築いてくれた「お互いに助けあう風土」ができていることが大切なのだと思います。
赤松:20年前とは本当に全然違いますよね。例えば、保育料が無料というのはすごいなと。ほとんどの給料が保育料に消えていたので。女性でも産休・育休がとりにくかった時代から、男性も育休取得が推進され、より助け合える環境になるのかなと思います。女性の負担が大きいイメージもあるので、男性もいっしょに両立しても良いんじゃないかなと思います。
植原:私はリモートワークの導入が進んだのはありがたいなと思っています。子どもの熱が出たときでも、家で仕事ができる環境を整えてくれたのは、とても良かったなと。子どもが寝ている間に、社外とのやりとりやミーティングができるので、助かっています。
阿部:コロナ禍のタイミングで、リモートワークの制度を整えたり、オフィス環境や服装もカジュアルなスタイルにガラッと変えたり、全体的に柔らかい雰囲気になりました。
取締役としてツアー事業全体を任された後、2017年に社長になりました。昔から男女の差を意識しない会社でしたが、その頃から「どうやって女性の管理職を増やすか」「女性に活躍してもらうか」ということが社会的な話題になってきて、この数年、世の中がここまで変わるんだと驚くほど、多くの企業で一気に女性管理職の数が増えたと思います。実は少し自慢なんですが(笑)、当社では私が社長になってから社員の出産が本当に増えたんです。孫ができるみたいに感じて幸せな気持ちでいっぱいです。もちろん、人員の調整は大変なんですが。子どもがほしいと思った人が授かることができ、例えば不妊治療をしている人にはそのサポートの体制も整えることができ、本当に良かったと思っています。私自身も課長・部長時代に5年以上、不妊治療を経験しましたが、当時は会社からのサポートなどはなく、病院通いや手術など全て密かに、無理やり時間を調整し行っていました。その経験があるので、社員が不妊治療をしたいという場合はそれを最優先に、あるいは子どもが熱を出して休まないといけない場合はそれを最優先してもらっています。もちろん忙しい会社なので大変なときもありますが、子ども優先という考えがしっかり浸透したなと感じます。「仕事があるのに」という妬みやネガティブな雰囲気がないのは本当にありがたいことだなと思っています。
赤松:会社の中ではアンコンシャスバイアスを感じることはありませんが、世間的には「男性が上でないと」という風潮が残っているのを感じることはあります。「社長や管理職は男性じゃないと」という考えはまだ根強いなと。普段社内で感じることがないので、逆にそういう場面に出くわしたときに強く感じてしまいますね。
阿部:私も赤松さんと同じように、社内では男女の差を感じることはほとんどなく、頑張ったらその分評価される環境でやれていると思います。ただ、社長になって、外部のいろいろな会合や業界の集まりに出ると、やはり全然違うんですよね。例えば、経済界の大きな会議や観光業界の大きな会合に行くと、最初は女性が少なくて驚きました。重要な意思決定の場は男性がほとんどで、そういうところで色々なことが決定されているんだなと感じました。変わってきてはいると思いますが、まだまだ世の中には高い壁があるなと実感する機会は多いかもしれません。
もちろんそういった中で、「女性の管理職や経営者がもっと増えないと」と本気で思ってくれている方もいれば、世間の風潮に合わせて「そうしなきゃ」と思っている方もいます。本気で思っていて、評価してくださる方もいれば、「女性だから」という先入観で接してくる方もやはりいます。こういうバイアスがなくなって、男女や国籍関係なくみんなが本当にフラットに議論し、アイデアを出し合って、働ける時代が来たらいいなと思いますね。実際、当社は女性がクローズアップされがちなんですが、男性社員もとても優秀で、しっかりと支えてくれています。社長が女性か男性かはあまり関係なく、私個人を見てくれている事、何よりも大切なお客様に焦点を合わせ、今自分がしている仕事を大事にする、そういう風土が浸透しているのはとても有難いです。

(お話を伺った赤松さん)
――柔軟な働き方を支える制度。社員が直面した課題にひとつひとつ対応する。
株式会社穴吹トラベルでは、社員が直面する様々なライフイベントや課題に対し、その人が仕事を続けられるよう、ひとりひとりに合わせて非常に柔軟に制度や業務を運用している。どのようにそのような環境を形にしているのだろうか。
赤松:今年からバースデー休暇ができ、子どもでもペットでも自分以外のものでも(自己申告で)、2日間取得できるようになり、社員の多くが使っています。あとは自己啓発のために書籍を買う制度もありがたいです。買った本の申請も不要で、決まった金額までは何でも買うことができます。あえて厳しい縛りも設けず、ひとりひとりを尊重してくれていると感じます。
植原:他の会社にもあると思うんですが、有給扱いで子どものための予防接種や検診のための休暇がひとりにつき5日、通常の休暇と別に設けられているのはとても助かっています。
阿部:当社は中小企業なので、新しい制度をつくるときは、実際に社員が直面した問題に対して、その都度対応してきました。リモートワーク、産休制度、不妊治療の休暇もそうです。ある管理職の女性社員の場合、結婚相手が茨城県在住の方で、従来の制度なら退職が避けられない状況でした。女性が辞めないといけないのはおかしいと考え、どうすれば続けられるか考え、2年間リモートワークで茨城から仕事をしてもらい、会議のために帰省する交通費は会社負担で仕事を続けてもらいました。社員それぞれが異なるライフイベントや状況に直面する中で、みんなが仕事を続けられるためにはどうすればいいか。その都度、「こんな制度をつくればどうだろうか」と話し合いながら進めてきました。本当は事前に準備をしておければ良いのですが、予測できないことも多くて。例えば、近年は外国人社員も多く採用しているため、日本の組織からするとビックリするような要求が来るケースもありますが、その都度、本気で向き合って(時には言い合いになったとしても)できる事、できない事、一緒に解決策を探している日々です。人に合わせて仕事を続けられるように制度や業務を考えて対応しています。したいことができなくて、諦めて辞めるということを無くしたいんですよね。地方の中小企業で、ひとりひとりが貴重な戦力なので。
他にも、不妊治療を優先したいから正社員から時間の自由が利くパートに変更したいと言ってきた社員がいました。正社員のまま不妊治療を優先できる形を考え、仕事に支障が出ないよう業務を調整したり、ちょっとした通院でも抜けやすいよう座席も調整したりしました。別の会社や仕事を見つけたり、本人自身が辞めたいと思って辞めるのであれば仕方ないですが、辞めたくないのに家庭や子どもが理由で辞めざるを得ないというのは、絶対に避けたいんです。どうにか続けられる方法を模索する、それだけですね。
対応する管理部門はとても大変だと思います。管理部門の担当者が男性だったら、私がいないところで悪口ぐらい言われていたかもしれませんね(笑) ただ、管理部門の担当は、赤松さんの次に産休を取得した、2人の男の子のお母さん社員なんです。だから、彼女も制度の大事さが分かっていますし、新しい規定を導入しようという話になっても、嫌な顔をすることなく取り組んでくれています。自分のときに制度はなかったけど、「次の世代のために」と考える人が多く、みんなが協力的なので成り立っているのかもしれないですね。なので、子どもが熱を出したとか、PTAがあるとか、ちょっと業務を途中で抜ける等は日常的によくありますし、そこは制度でがちがちに決めたりはしていません。この規模の会社だからできることかもしれないですね。ただ、制度だけ作っても大切なのは利用しやすい環境や風土という点では、当社のような会社のことが広まれば、大企業さんにとっても何かしらのヒントになればよいなという想いもあります。
具体の事例としては、不妊治療についてがわかりやすいでしょうか。これは全社員に当てはまる問題ではありません。ひとりの社員が声をあげてくれたので、気づいて対応できました。まず、本人からも了承の上、朝礼やキックオフミーティングで、「○○さんはこれから不妊治療を優先します。座席も自由に移動しやすいよう変更します。みんな気配りお願いします」と共有をしました。その際に、これは彼女だけの特別な対処ではなく、今後他の社員も同じように使えるものだと伝えました。その後、他の社員からも不妊治療に関する相談があり、これまでの事例があったことで取り組みたいと言ってくれました。
赤松:不公平感を持つ場合もあるかもしれませんが、当社では感じたことはないですね。
植原:私も時短勤務やいろいろ活用させてもらいましたが、後輩たちにも同じように活用してもらいたいですし、制度を活用できると実感してもらい、安心して仕事を続けてもらいたいと思っています。また、急に子どもが熱を出したとき等にフォローをお願いする側になるので、日常的なコミュニケーションを大切にしていますね。普段の会話の中で「こういうことをしたい」「こういうのはちょっと」という希望を聞くこともあるので。
阿部:周りの近い先輩たちが背中を見せてくれているおかげで、若い社員も「自分も安心して休暇を取れる・制度を使えるんだ」と感じられているのだと思います。ただ、結婚している人・子育てをする人を優先する制度が整うと、独身の社員や子どもがいない社員からは、少し不公平感や羨ましい気持ちが出てくることもあると思います。人間ですから。そういうときは個別に食事に行ってしっかり話をする時間をとったり、キャリアをしっかり進めていけるよう話したりしますね。女性同士が不満を持ち合うと、組織内の対立が生まれてしまうこともあるので、双方に配慮することが大事ですね。どちらか一方ばかり優遇されると不満が出て、影で問題が起こるようなケースは避けたいです。やはり、全員に目を向けることが大切だと感じています。
赤松:若い社員や外国人のメンバーが増えて、私たちの世代とは全然違う考え方を持っています。ただ、息子がいるので、違う考え方は受け入れられる方じゃないかとも思います。多様性が高まっていますが、社長が発信してくれていることもあり、バリアを張らず仕事ができています。とにかくまずは意見をしっかり聞くことが大切ですね。お互いが理解し合わないと物事が進まないので、時間をかけて話し合うことを大切にしています。
阿部:「慣れてきた」というのが本音でしょうね。以前アフリカからインターンを受け入れたこともありますし、ジェンダーについてもインバウンド事業をしていれば様々な性差の方と接する機会も増えますし、自然と多様性に触れるきっかけになっていると思います。
赤松:あと、子育ての話が多く出ましたが、これからは介護の問題が出てくると思うんですよね。社員の中で初めて介護の課題に直面するのも私じゃないかなと思っているんですが。子育てはある程度ゴールが見えるのに対して、介護はいつまで続くか分からず、子育て以上に大変で会社を辞める人が多いと聞きます。若い頃は体力がある分子育ては何とかできても、介護に大きな不安を感じる人は少なくないと思います。今は子育てに対するサポートが前面に出ていますが、少子高齢化が進む中で、介護も大きなテーマになると思っているので、早めに対策を考えていけたらと思っています。
植原:私は、正直今は困っていることはないんですよね。子どもが大きくなったらどうなるか、そのときになってみないと分からないので、いろいろ考えていきたいところです。

(お話を伺った植原さん)
――株式会社穴吹トラベルが、これから目指すこと。
最後に、阿部社長に、これから株式会社穴吹トラベルが目指す方向性やビジョンについて、語ってもらった。
阿部:弊社は国内外のお客様を多く抱え、専門性の高いインバウンドや地方創生事業など、多様な業務を地方でリアルに行っている数少ない旅行会社です。その為出張も、イレギュラーな電話対応も多く、外国人社員も増え、社内がとても多様な環境になっている事が課題です。その全員が満足できる、働きやすい環境にしていくのは非常に難しいですが、まずはどこにいても効率よく仕事ができるようにする事、この会社に勤めていて良かったと男女や国籍関係なく、全従業員に感じてもらえる企業を目指していくことが大事だと考えています。
その中でお客様に喜ばれる新たなサービスの実現や企画商品の開発を、原価が高騰し続ける中、どこまで実現できるか、小さなお子さんがいる女性社員も多く「働く時間が限られている」中でどこまで対応ができるか…。これまで以上に大きなチャレンジになると思いますが、お客様の期待以上のご旅行やサービスをお届けできる企業でありたいですね。
実は当社は、子ども達がオフィスに来ることがよくあって、会議をしている時にいっしょにいたりもするんです。そこで会社の中に育児ルーム的な誰かが子供を見ておける場所があったらどうかと提案したこともあるのですが、「お母さんが、見えるところにいるのに側にいないと、子どもは大泣きするので無理ですよ~」と笑われました。子供のいない私が良いと思うことと周りが良いと思うことはズレもあるので、やはり社員から直接意見を聞きながら、実際に役立つ制度・本当に必要な制度を見極めてつくっていくことが重要だと改めて感じています。ひとりひとりの意見は違うのですが、大きな束になると共通のニーズも見えてくるので、それを整えていきたいですね。
また、話にも出ましたが、介護旅行の事業も、2010年に立ち上げて以来、とても大切にしています。老人ホーム等で普段旅行に行けない方が、添乗員とヘルパー両方の資格を持つスタッフのサポートを受ける事で、遠くまで行けなくても、お墓参りやデパートでの買い物等の外出を楽しめると非常に喜んでいただけています。これからの社会にとっても、生きがいにつながる大切な事業なので続けていきたいですし、子育てや介護経験のある年配の方の知恵や経験が大切になってくると思うので、採用等も含めて考えていきたいと思っています。最近では添乗員さんも、定年でリタイアしたシニアの方が「昔から一度やってみたかったんです」とチャレンジされる方が増えました。まだまだ元気なシニアの方たちが、活躍できる「新しい働く場」をつくることにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
女性の管理職を増やしたり、管理職に多様性を生んだりするには、トップが覚悟を決めて意図的に進める姿勢がないと、特に最初の一歩は難しいと思います。赤松さんも当初は管理職になるつもりはなかったですが、出向先から戻った際にぜひと思い相談し、植原さんもそれまでの仕事とは違う営業職を係長としてやってもらっています。意志とやる気がある人にはキャリアアップの機会を掴んでもらいたいです。女性社員の場合、まだ自ら手を挙げる人は少ないですし、会社都合で管理職へ昇進させるだけでは負担が増えてしまい、本人が辛くなってしまうこともあります。周りから「管理職なのに早く帰っている」という見られ方をされたり、それでも子どもが体調を崩したらそちらを優先する必要があったり。そのサポートは経営層が覚悟を決めて対応しないと、昇進した人が本当に苦労してしまいます。サポートを整えながら、一緒に進めることが大事なのではないでしょうか。
まだまだ私自身が理想とする会社像とはほど遠く、道半ばな事ばかりですが、社員の子供たちが大きく成長していくように、あなぶきトラベルも日々チャレンジしながら進化成長していけたらと思っています。
実は、2025年は弊社にとって創業35周年の節目の年です。「瀬戸内国際芸術祭2025公式ツアー」の企画運営実施を瀬戸内国際芸術祭実行委員会様から任されており、世界中から四国瀬戸内を訪れる皆様にこの場所や人々の魅力を深く感じて頂けるよう、社員一丸となって取り組んでいる所です。また、9月には高松サンポート港から「豪華客船飛鳥Ⅱ」を貸切ってのチャータークルーズ企画もあり、船内で阿波おどりやよさこい踊り等、四国の祭りや伝統文化を約800名の国内外のお客様にご体験頂く「四国フェスティバル」も開催致します。自社の成長だけでなく、四国地域の皆様にも必要とされる企業となれるよう、これからも真摯に、丁寧に、仕事を続けていきたいです。

(お話を伺った阿部さん)
●株式会社穴吹トラベルのWebページはこちら
制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議
取材場所:本社