地域の事業者の「困った」を助ける。商工会議所が果たす地域への多様な貢献の形
- 高松商工会議所
- 2023.09.15
- 香川県高松市
「商工会議所」という名前は聞いたことがある人が多いだろう。しかし、「商工会議所が何をしているところか」と聞かれると、正確に答えられる人は多くないかもしれない。高松商工会議所の方々に話を聞くと、「地域の事業者の『困った』を助ける」ことが役割だと語ってくれた。地域や事業者の活力につながることであれば、幅広く・多岐に亘る事業を行っているという。多岐に亘るが故に、外から見ると事業の実態が少し見えにくくなっているのかもしれない。今回、高松商工会議所の3人の女性職員の方々から、商工会議所が果たす地域を広範に支える役割や、地域貢献のために目指す方向性、また女性のキャリアに至るまで、地域にとってのキーワードとなる様々な話を伺うことができた。
〈インタビュー相手〉
■ 神原 知江(かんばら ちえ)さん:高松商工会議所 事業推進部 産業・人材課長。香川県高松市出身。広島県の大学を卒業し、香川県の民間企業を経て、高松商工会議所に入所。記帳専任職員・補助員を経験した後、現在は経営指導員、産業・人材課長を務める。
■ 齋藤 志織(さいとう しおり)さん:高松商工会議所 総務会員部 会員活動推進課。香川県高松市出身。兵庫県の大学を卒業し、兵庫県の民間企業、高松市の嘱託職員を経て、高松商工会議所に入所。会員活動推進課で勤務。
■ 前田 彩加(まえだ あやか)さん:高松商工会議所 事業推進部 産業・人材課。香川県高松市出身。兵庫県の大学を卒業し、香川県の民間企業を経て、高松商工会議所に入所。総務課、企画推進課を経て、現在は産業・人材課で勤務。
――高松商工会議所で働くことを決めた理由、三者三様の背景
神原さん、齋藤さん、前田さんは、お三方とも香川県の出身で、県外の大学に進学した。高松商工会議所に入所する前には別の民間企業での勤務も経験され、三者三様のタイミング・背景を持ちながら、Uターン・転職を決めた。最初に、お三方が高松商工会議所に入所されるまでについて、話を聞いた。
神原:入社が平成6年(1994年)で、28年勤めています。大学は県外に出ました。教員になりたくて教育学部に進学しましたが、教育実習で自分に合ってないことを実感し、民間就職を選びました。就職による環境の変化や、仕事と生活を両立するための心身への負荷が不安で、家族と生活できる場所が良いと考え、高松に戻ることにしました。しかし、バブルが弾けた後の就職氷河期で、四大卒の女性を採用しない会社も多く、就職活動が本当に厳しかったんです。高松で四大卒の女性の採用があった会社にとにかく応募して、ご縁があったところに就職しました。理想とするキャリアがあっても、選択肢が少なかった時代だったと思います。営業職として働き始めたんですが、成果主義過ぎたところや、同僚と競争して実績追求マインドが残念ながら当時の自分に合わなくて。そこで、人のために尽くしていく仕事の方が合っているのでは、と考えるようになり、募集していた商工会議所に応募しました。
齋藤:香川出身で、高校卒業まで高松で暮らしました。高松は田舎だなと感じていて、大学で近場の都会に出たいと考え、関西の大学に進学しました。進学したときは一生帰ることのない土地だと思っていましたね。就職活動は、やりたい仕事やビジョンがなかったため、転勤がないことと社風を重視して、関西の民間企業に就職しました。就職して2年経って妊娠し退職しました。子育てをする中で、高松の人の温かさを感じ、自分が嫌だった高松の田舎な部分が子どもにとって良い環境なのではないかと考えるうちに、戻りたいという気持ちが湧いて、高松に戻りました。ただ、高松の企業をあまり知らず、いろいろな人と関わりたいと考えて、市役所の嘱託職員として勤務しました。いろいろな市民の方と関わりは持てたんですが、「もっと継続していっしょに歩んでいける仕事がしたい」という想いを持つようになったんです。商工会議所の求人を見つけ、より深い関わりを持った仕事ができそうだったこと、仕事内容が多岐に亘り様々な経験をできそうだったことから、純粋に楽しそうだと気持ちが動いて、応募しました。子どもとの時間も大切にできそうなこともポイントでした。
前田:私も高松の出身で、東京までは行きたくないけど関西には1度出たいという想いがあり、兵庫の大学に進学しました。就職活動では、母の背中を追いたいという想いが強くありました。母は、私が小さい頃は県内で働いていたんですが、私の大学進学と同時に全国に出張・転勤する営業職になったんです。男性に負けない働きぶりを聞いたり、工場見学にも連れられたりして、「本当に必要とされているんだ」と強く感じたんですね。その影響で、業種問わず営業職で働きたいと考えていました。女性が活躍できる企業でなければ女性の営業職の採用はとても厳しいと感じていたので、女性の営業職が活躍できる企業かどうかを重点的に見ていました。そのまま兵庫で就職を考え数十社程見ましたが、やはり女性の営業職の求人は少なく、後半に香川にも目を向けるようになって高松の企業とご縁があったので新卒で高松に戻りました。戻ったことで相談相手として母がいるのは心強かったですね。2年ほど勤め、とても良い会社でしたが、体力が必要な職場で一時期ついていけなくなり、定年まで営業職として働けるか悩むようになりました。転職を考えたタイミングで、商工会議所の求人を見つけ、様々なジャンルに関わりを持ちながら営業や事務という職種にも囚われずに働けることや、仕事と生活の両立ができることに魅力を感じ、応募しました。
――高松商工会議所が地域で担う多様な事業、地域を元気にする役割
商工会議所は、地域の企業の支援を多角的に行っている。神原さんは、商工会議所の事業を「地域の事業者さんを元気にできるというところが1丁目1番地」と語ってくれた。地域の事業者を支える多様な事業や役割が、神原さん・齋藤さん・前田さんの担当する業務から見えてくる。
神原:私が採用された頃は、いわゆる一般職と総合職が分かれていて、私は記帳専任職員という事業所さんに帳簿のつけ方をお伝えする一般職での採用でした。その業務を10年程続け、総務を数年経験し、次に経営指導員を拝命しました。事業者さんの経営のご相談を受ける役割でこちらも10年程担当しました。私が経営指導員になる少し前頃から、女性も経営指導員を担当する流れが生まれてきて、長く勤めた女性職員が経営指導員の登用が始まったタイミングでした。事業所さんと一対一で向き合って相談に応じる仕事がキャリアの内の20年になりますね。
今は産業・人材課に配属になり、5年目になります。産業振興と人材の2つを柱にした課で、前者は中心市街地活性化のための商店街振興(商店街の事務組合業務の委託やイベント企画)、中心市街地活性化協議会等を担当し、後者は事業者さんの喫緊の課題となっている人材育成・確保・定着の支援のため、事業者さんの個々の支援、セミナーや「かがわーくフェア」という産官学連携の合同就職説明会の主催、地元の事業者さんと人材のマッチング等、多面的に支援しています。あと、今年は高松商工会議所連として高松まつりの総踊りに参加し、その業務も担当しています。業務は非常に幅広いですね。
齋藤:入社して2年半、会員活動推進課で会員企業さんを事務的な面からサポートしています。今担当しているのは労働保険の委託業務です。商工会議所に労働保険事務組合があり、200程ある会員事業者さんから委託を受け、手続き業務を代行しています。あとは、貿易に必要な原産地証明の発給等も担当しています。課としては、他に共済の手続きや、会館の管理、会員企業の交流会の企画等を行っています。
実は、入社してすぐは、会議所に入会する価値が分からなかったんです。ただ、会議所のサービスを知れば知るほど入会する価値が分かりつつあって、今自分が起業したら間違いなく入会すると思います。会議所の事業や使い方を分かってきたからこそなんですが、会員さんからのアンケートを見るとまだまだ使い方を分かっていない方もいらっしゃるので、いかに会員事業所さんとの接点を多く持てるかを課題に設定しています。自分が事業者さんと関わる中で、初めて接点を持てたり、PRした後に交流会の申し込みがあったりした場合はうれしいですね。
前田:今まで3つの部署を経験しました。最初は総務課で会員企業による委員会や部会の運営や、年数回開催される総会の準備事務を担当しました。次に、企画推進課で、Go to Eatキャンペーンやワクチンの職域接種に関する事業者さんのサポートを担当しました。今は産業・人材課で神原が直属の上司です。香川県と労働局が共催する「かがわーくフェア」という就職イベントの企画運営、会員企業様の新入社員研修や管理職研修の外部研修等に携わっています。あとは、先ほども話に出た高松中央商店街の事務局の受託業務も担当していますし、高松商工会議所女性会、香川県商工会議所女性会連合会と、四国商工会議所女性会連合会があるのですが、県女と四女の事務局も担当しています。
個人的に印象に残っている仕事でいうと、企画推進課のときに、工芸部会という部会で、中川政七商店の会長さんを招いて講演会を実施したんです。参加人数も多い上に司会進行も担当して、プレッシャーも非常に大きかったんですが、「高松で聞けると思わなかった」という声や、とても良いリアクションをいただき、高松でもできることはあると強く感じることができた経験でした。今の部署で企業の人事担当の方とお話ししていると、「商工会議所ってそんなこともやっているんですね」と言われることも多く、まだまだ商工会議所の取り組みの認知度が高くないので、必要とされるセミナーやイベントを考えることに今はやりがいを持っています。
神原:私は入所当所から、小規模の事業者さんを中心に多くのご縁がありました。創業当初からご支援させていただいている企業が、その企業さんのライフサイクルの中で私のことを思い出してくださり、岐路の度に相談に来てくださるような関係を築けたことも多くあります。自分も日々勉強し、事業者さんから叱咤激励を頂きながら、自分の言葉で物事をお伝えして、徐々に信頼してもらえて、結果お客様から「ありがとう」と感謝の言葉を直接聞けるのは、とてもやりがいのある仕事だなと思います。時には仕事面だけではなく家族のことを気にかけてくださり、良い人間関係を築けているのは財産ですね。事業者さんと共に成長してきて今があるという実感が強くあります。今の業務では面的な支援を求められる立場ですが、自分の性格的に今の仕事を長く続けられているのは、その一対一の支援にやりがいを感じたからこそではないかなと思います。
商工会議所の仕事は、地域の事業者さんを元気にできるというところが、1丁目1番地かなと思います。スタートアップから事業承継まで、やはりどうしてもうまくいかず廃業せざるを得ないケースもあるので、本当に最期まできれいな終わり方を探すというところまで親身になれるのは、商工会議所ならではだと思います。金融機関が数年に1度担当が変わって長い付き合いが難しい中で、商工会議所は職員が退職しない限りは所内にいるので、長くいっしょに歩んでいけるというのは大きいと思いますね。
また商店街の振興や中心市街地の活性化においても、昨年「がんばろう!商店街事業(旧:Go To 商店街事業)」では20年ぶりに商店街で抽選会を復活させることができ、20年間できなかったことを形にできたのは大きかったなと思います。先輩方が進めてきた地域振興の取り組みは様々あるので、いいところを残しつつ今の時代にあったものを求めて変えるところは変える、その両方を半官半民である商工会議所は追っていけるのかなと思います。
――Uターンして感じる、香川の魅力
続いて、香川以外の場所での生活を経験したお三方に、Uターンして香川の生活環境をどう感じているかについても、話を聞いた。
神原:高松は、都会でもあり、田舎でもあり、コンパクトで暮らしやすいという高松市が打ち出している方向性そのままの街だと思います。恐らく都会の方からは田舎に見られると思うんですが、支店経済で発展していて必要最低限のものはすべて揃っていますし、G7の都市大臣会合が開けるように都市として十分な機能を備えています。高松中央商店街の皆さんも頑張っていて商業的な機能もありますし、物価が安く、肉も魚も野菜も美味しく、生活はすごくしやすい環境かなと。大阪や神戸も近く、東京も飛行機で1時間ほどで行け、海外も直行便が通っていて、リモートワークが進んだ中で拠点にする場所としても非常に良いところだと思います。災害も少ないですし、地形がフラットで自転車での移動もしやすいですし。また、待機児童も少なく子育てもしやすいですし、地域コミュニティが温かく近所の人が子育てをサポートしてくれるのもありがたいですね。
齋藤:私は香川に戻ってきて、関西にいた時とギャップがなさすぎて、「香川に戻りたくない」というこだわりは何だったんだろうと思います。なんであんなに「田舎で嫌」と思っていたんだろうと。実際住むと、生活スタイルも全く変わらないです。
それに、家族が近くにいるのはとても大きくて、子どもが小さい頃に香川に戻ってこられたことはすごくありがたいことだと思います。関西では遊びに行く場所が公園や児童館だったんですが、香川では近くの田んぼも遊び場になり、泥だらけになるまで遊ぶこともできます。親も近くにいるので心の余裕もあって、子どもが多少無茶をしてもイライラすることがないですし、ゆったりとした子育てができていると思います。
前田:私も神原や齋藤と同じ感覚ですが、「海に行きたい」「田舎を味わいたい」となっても1時間で行け、遊びに行きたければ中央商店街があり、隔たりがないと感じています。日帰りで兵庫に行ってみようということも軽くでき、香川にデメリットを感じることは本当にないですね。
――これからのキャリアビジョン、目指す地域貢献の形
最後に、地域貢献や企業支援を様々な面から行う高松商工会議所で、お三方が今後どういうキャリアビジョンを持たれているか、またどんな業務へのチャレンジを通じ地域貢献を目指しているかについて、話を聞いた。
神原:大きく2つあります。ひとつは多くの事業者さんが悩まされている人手不足への取り組みです。かがわーくフェアや就職説明会に取り組みながら、新しい人材確保の方法として、首都圏の兼業・副業人材を人手不足解消や経営力強化に結びつける施策に挑戦しています。また、大学等と連携した外国人留学生の地元就職のための施策等、人手不足の解消や多様な人材が活躍できる環境の整備は、これからずっと続いていく課題で欠かせない取り組みかなと思っています。もうひとつは、個人的になりますが、ジェンダー差への理解を深めていくことです。家事育児は女性の仕事というような意識からの脱却を発信していきたいです。商工会議所の女性職員で育休を取得したのが、私が最初なんです。1.5か月の取得でしたが、今では1年取得が当たり前になり、育児のための時短勤務等の制度活用も進んできました。以前は出産を理由に退職した方もいて、女性が働く中で仕事と家庭を両立できるよう、男性もいっしょに変わらなければいけないということを発信していきたいです。
私が道を切り開いてきたとは思いませんが、今課長という職で仕事を続けていくことで、同じように働きたい後輩が働きやすい環境になればと思っています。商工会議所だけの話ではなくて、中小企業のみなさまに対してもお手伝いできればと。子どもが体調不良で迎えが必要なときにお互い様だと言い合える心のゆとりのある働き方、多能工化し、皆で業務のシェアができ属人化せず働けるワークスタイル。人員がいるからできると言われますが、数十名の小さい規模の組織でもそれができる方法を常に頭の中でぐるぐる考えています。
私の中でずっと思っているのは、「困ったら商工会議所に聞こう」「○○さんがいるから商工会議所に声をかけよう」「商工会議所はやっぱり役に立つよね」と思ってくれる方がひとりでも増えるように、ということです。「神原がいるので会議所に連絡してみた」と言ってくださる、その本当にありがたい声に対して貢献できるよう、いろいろな取り組みをやっていきたいです。また、そういうマインドの職員が増えて、組織全体がそういうマインドになって、より深く地域の役に立てればと考えています。
齋藤:今は自分に任された仕事を深掘りし、数年先には経営の面から事業者さんと関わっていきたいです。「役に立ちたい」という気持ちがあるので、起業した際や事業を行う上で「どこに相談したらいいんだろう」と不安に思ったときに、相談する選択肢に自分が挙がり、いっしょに解決して安心感を与えられるような存在になりたいです。
神原課長が、「組織全体でそういうマインドの職員が増えたら」と申しましたが、私はまさにそういう人になりたいというのが目標です。1番最初の相談窓口でありたいです。
前田:UIJターンに関する企画に取り組んでいきたいと考えています。会員企業様のためにも、香川で就職や採用活動をしてくれる人を探さないといけないと思っていて、齋藤や私のように特に理由がないけど香川に帰りたくないと思っている人も一定数いると思うので、そういう方々に香川に戻るきっかけをつくることで貢献したいと考えています。また、事業推進の部門が長く、いろいろな経験を積んできたので、今齋藤が担当しているような労働保険等の事務的な業務も勉強して挑戦したいですね。私も、ふたりと同じように、相談の窓口相談に自分がなりたいという想いは強くあります。
神原:女性の経営指導員も増えてきて、女性の起業家も一時期よりは増えてきました。女性が相談を受けられることで、力になれることも多いと思います。会議所はハードルが高いという声を、自分たちが窓口になることで少しでも下げることができればうれしいですね。
商工会議所の仕事は、「自分のためというよりも人に尽くせる人」の方が絶対合うと思います。組織の成り立ちとして、会員企業さんの発展や社会の福祉増進に寄与することが原点で、サポートや地域貢献に属する業務がほとんどになります。表に出る派手なイベントもあれば裏方の仕事もありますが、根本は事業者様の「困った」を助けることが1丁目1番地だと思うので、それを億劫に思わずにできる方が合うと思います。
齋藤:「人と関わることが好きな方」が合うと思いますね。裏方的な仕事であっても事業者さんと関わっていきますし、パソコンと向き合って完結することではないので。人と関わりを持つ中で達成感を得られる方が合うのかなと思います。個人的にもそういう方といっしょに働きたいですね。
前田:「いろんなことを経験したい方」も合うんじゃないかと思います。齋藤のような労働保険の事務もあれば、私のようなセミナーもあれば、補助金の支援もあり、「これだけしかしたくない」という方より、異動先で全く違う仕事になっても「こういう仕事もあるのか」とポジティブに捉え、いろいろな経験を吸収したい方が合っていると思います。
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制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議
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