女性のキャリアに必要なのは、「機会」を与えること
- 帝國製薬株式会社
- 2023.08.23
- 香川県東かがわ市
- 本社
「私自身は『女性活躍』という言葉があまり好きではなくて。女性活躍と言う限りは、女性が特別扱いされてしまうと思うので、そういう言葉がなくなるような世界にしていきたいんですよね。それも弊社だけではなく社会全体で。社長ともよく話すんですが、『女性だから○○』ということがなくなることが理想ですね。そのためには、やはり機会を平等に与えることが重要だと思います」
香川県東かがわ市に本社を置き、医療用パップ剤のシェアで世界一を誇る帝國製薬株式会社で、経営企画室長を務める中川さくらさん。中川さんのキャリアや帝國製薬での取り組みについて話を伺う中で、出た言葉が冒頭のものだ。中川さんへのインタビューを通じて、女性の自律的なキャリア形成のためのヒントを探った。
〈インタビュー相手〉
■ 中川 さくら(なかがわ さくら)さん:帝國製薬株式会社 経営企画室長。テイコクメディックス株式会社にMRとして入社。テイコクファルマケア株式会社を経て、帝國製薬に移り、その間一貫して営業に従事。2021年に新しく立ち上げた経営企画室の室長に着任。
――営業としての様々な経験を経て経営企画、中川さんのこれまでのキャリア
中川さんは、入社当時まだ全国的に数が少なかった女性のMR(=Medical Representatives=医療情報担当者)としてキャリアをスタート。様々な営業の業務を経験し、現在は経営企画室長を務める。まず中川さんに、これまでのキャリアについて振り返ってもらった。
中川:帝國製薬の子会社のテイコクメディックスという医療用医薬品の販売部門のMRとして入社しました。女性MRはそのほとんどが外資系採用だった当時、初めての女性MRとして入社しました。大学で抗生物質の研究をしていて、研究自体にもやりがいはありましたが、研究を実際の社会に活かしたいという想いがあったんです。研究は長い時間がかかるものですし、コミュニケーション好きということもあり、人と会いながら理系の知識で貢献できる仕事として製薬会社のMRになりたいと考えました。MRとして数年働いた後、OTC(一般用医薬品)を取り扱うテイコクファルマケアに移り、化粧品・医薬品の営業を担当しました。その後、帝國製薬が自社販売機能を持つことになり、医薬営業部門を立ち上げる際に、MRの資格を持つ者として声がかかり、親会社である帝國製薬に異動しました。その後、BtoBの営業を担っている営業部にて大手製薬会社さんや化粧品会社さんを担当しました。帝國製薬が担当している営業の業務はほぼ網羅したと思います。それぞれの部門ごとで、営業に何か大きな違いを感じたことはないですね。営業スタイルは違いますが、当社がニーズに応じて売り出したいものを、お客様に伝えて広めていくという意味では変わらないかなと。営業で、たくさんの方とお会いできたことは財産になっていますね。お客様、競合他社さん、いろいろな方と接することで、自分の考えだけでなく、いろいろな考えを尊重し取り入れられるようになったことは大きかったと思います。
そして、2021年に経営企画室を立ち上げることになり、室長に着任しました。最初のミッションが、2022年から5ヵ年の中期経営計画の立案でした。経営計画を形にすることで、社員が足元だけを見るのではなく、帝國製薬がどこに向かって走っているかを明確にし、同じ方向を向いて一丸となって進めたいという想いがありました。今年は中計2年目であり、経営企画室として、サプライチェーンマネジメントの体制強化、新規事業の探索、社員が生き生きと働ける環境づくり、社長の特命事項等、より良い経営のために様々な業務を担っています。また、中計の基となるビジョン2031という10年後のビジョンを策定し、「独自技術で市場ニーズを解決する存在感のある会社」を掲げました。そのための3つの柱として、パップ剤をつくっている会社ですので、「『貼って治す』を世界に届ける」「人類の痛みからの解放」「超高齢社会への貢献」を掲げています。社員全員で向き合っていきますが、それを旗振り役として動かしていけることはやりがいを感じますね。営業は、社外からの意見を取り入れ社内を活性化する役割、経営企画はそれらを取り入れ、会社全体を動かす役割だと感じています。
――女性という視点で見るキャリア、女性のキャリア形成のために大切なこと
様々な業務を経験した中川さんのキャリアを、「女性」という視点を持って振り返ってもらいつつ、併せて女性の自律的なキャリア形成のために中川さんが考えていることについて、話を聞いた。
中川:私が入社した頃は、結婚したら仕事を辞めるとか、出産したらキャリアが終わるとか、そういう声もありましたし、特に営業では自分の居場所がなくなってしまうこともありました。他社の製薬会社さんでも、入社時の雇用形態が契約社員のみだったり、結婚・出産したら営業ができなくなってしまったり。私自身、結婚はしましたが、子どもはいません。子どもがほしいと考える時期もありましたが、一方で「子どもができたらどう仕事を続けていこう」と、若い頃はそれがずっと重しになっていました。今はハラスメントですが、社内外で「いつ子どもをつくるのか」と聞かれて、それもしんどかったですね。ただ、「できたらできたで何とかなる」という気持ちでいました。出産した後のキャリアの新しいロールモデルになればいい、できなかったらまた別のモデルになればいいかなと。また、キャリアで女性としての難しさを感じたことでいうと、今はそんなことないと思いますが、以前は男性の発言と女性の発言の重みが違うところがあったと思います。同じ内容のことを言っても、男性で少し年嵩の増した人の発言に重きを置かれることがあり、その頃は男性の信頼度が高かったのかなと。業界特有の話でもなく、社会のどこでもそうだったんじゃないかなと思いますね。
弊社でも、男性社員が女性社員をすごく大切にしているんですが、ただ、やり方が少し違うかなと思うことがあって。男性は良かれと思ってしていることだと思うんですが、例えば、責任者の候補に男性と女性が挙がった際、「女性に責任やストレスが大きい仕事をさせるのはかわいそう」という声が出ます。これは少し過保護なアンコンシャス・バイアスかなと思います。能力はもちろんですが、本人の希望を大切にしてキャリアを築けることが重要だと思います。希望があるなら、その仕事の機会を与えて、できるのであれば任せていくこと。能力があっても、嫌な仕事だと伸びませんから。女性だから管理職に上がりたくない、ということではないと思うんですね。男性でも女性でも、責任を抱えたくないから現状のままで仕事がしたいという方がいるのは同じかなと。ただ、男性が家事や育児や介護を担うことは増えてきたと思いますが、まだ女性がするものという風潮が残っていると思うので、それが原因で仕事の負担を少なくしたいという方はいるかもしれません。
また、弊社だけでなく、例えば国会でも女性の議員割合とか、会社の管理職の女性比率について非常に重要視されていると思います。弊社も管理職比率の目標はクリアしているんですが、ただその率のため・枠のために女性を昇進させないでほしいと考えています。私の場合も経営企画室の室長に就いた理由が「女性だから」と言われるのは絶対に嫌なんですね。性別関係なく、その人の能力を見てあげてほしいです。女性だから守ってやらせないのではなく、女性に活躍できる機会を与えるようにしてほしいと思います。能力を上げる機会が大切です。機会が増えれば、自然と率も上がっていくはずなんです。女性がキャリアを考えるにあたっては、個人的には、女性ということを考えない、性差について特別な意識を持たない方がいいと思いますね。パーソナリティーを大切にしていればいいんじゃないかなと。男性女性関係なく仕事ができるのが1番だと思います。特に営業の場合は、人とたくさん会いますので。
――帝國製薬としての取り組み、ビジョン等の社内への浸透のために
女性のキャリア、ひいては社員ひとりひとりの自律的なキャリア形成のため、またその意識を社員ひとりひとりや会社全体に浸透させるため、帝國製薬として取り組んでいることについても、話を聞いた。
中川:社としての取り組みのひとつは認定制度です。「くるみん」と「えるぼし」のマークを名刺にも載せていますが、認定をとって社外にも発信することで、「帝國製薬はこういう会社だ」という社員への意識づけや責任感につながっていると思います。また、くるみん制度があることで、女性の大きなライフイベントである出産からの復帰に男性が協力するため、男性の育休の推進に力を入れています。出産からの復帰が非常に大変な中で、男性の協力があると大きく違うので。くるみんの認定をとることで育休を取得しやすくなったと思いますし、仕事だけではなく家庭との両立もしやすくなったのではないかなと。また、社会的な変化も大きいと思います。社員ひとりひとりの意識の変化もありますし、管理職に対して「私なんて」と控えめに応じる女性が多かった頃と比べ女性管理職も増えましたし、またそれらが当たり前の環境で育った社員も入社しています。それらの変化に対して、弊社が受け入れたことも大きいですね。「そんなこといっても男性の世界だから」という態度では、広がっていかないですし、世間との乖離が大きくなってしまうので。
弊社は社長の藤岡が女性ということもあり、女性が働きやすい環境であり続けていると思います。結婚して出産しても、復帰して普通に仕事ができます。先ほど私が話した苦労は当時の営業職ならではのしんどさで、今なら私も出産・復帰という道を歩んでいた可能性はあります。社長はいつも、“みんなが”働きやすい環境“と言っています。女性だけではなく“社員全員が”、ですね。社長も、“女性だから”という見方はせず、平等に見ています。
そうした意識や、またはビジョンや経営計画を、社員ひとりひとりや会社全体に浸透させるために大切にしているのは、「自分ごとにさせること」ですね。理念やビジョンというと自分から遠いものに感じてしまいますが、例を与えて「あなたの場合はこうだよね」と示すと、「自分にも関係のあること」に気づきます。会社の上の方が言っていることではなく、自分がいつもやっていることも理念やビジョンに通じていることに気づかせ、自分ごと化させる。自分ごとになれば取り組めますから。部門長に伝え、部門長から部下に伝え、社長もいろいろな機会や場面でお話しされて、どんどん馴染ませていくような感じです。
策定した中期経営計画C&C2026の、C&CはChallenge & Changeなんです。弊社は今年で175周年ですが、歴史が長く、組織が大きくなるほど、変化(チェンジ)する怖さが出ます。そこを挑戦(チャレンジ)して変えていくことが、今1番大変なところです。その考えがないと、200年やもっと先まで続けていけないと思い、中期経営計画C&C2026を策定したので、今が変換期だと思います。時には、「このままいくとこうなる」と数字を示し、危機感を与えたりもします。ぬるま湯の状態ではなく、今を見つめて未来へ向かって取り組んでいく意識を高めたいですね。
――帝國製薬のビジョンの実現が、より良い社会をつくる一助になる
最後に、これからの話として、帝國製薬として取り組みたいこと、中川さんが注力したいと考えていることについて、話を聞いた。
中川:帝國製薬は、東京と大阪に事務所がありますが、リモート会議等も簡単に活用できるようになり、本社にいながら東京や大阪との仕事も可能になりました。そういう働き方の柔軟性はどんどん高まっていけばと考えています。四国は、キャリアアップを目指す女性が都会に出て行ってしまう傾向が強いと伺っています。帝國製薬が、女性が働きやすくキャリアアップもできることを知ってもらえれば、その改善にもつながると思うんですよね。なので、女性がより働きやすい、キャリアをどんどん描いていける職場にしていけたらと思っています。それでいろいろな人材が入ってきてほしいですね。そのための環境を整えたいですし、例えばジョブローテーションを通じて、自分に合っている仕事に気付くことのできる環境にしていきたいと考えます。更に言えば、四国から離れていたとしても、帝國製薬で働きたいと思えばその場所で働ける、リモートでも帝國製薬の一員になれるということが当たり前になればと思いますね。そのためには、会社としてどこに魅力を置くかが大事になります。業務内容はもちろん、働きやすい環境をどこまで整えられるか。その点でいうと、弊社は社員旅行を毎年行っております。5年に一回は周年記念として、海外もあるんですよ。ちょうど今年が175周年でしたので3泊4日の社員旅行に行ってきました。社員のモチベーションアップにもつながり実施を続けています。また社員食堂の充実も図っていて、この場所で働く魅力を高めるための取り組みも行っています。
また、女性の管理職比率は高いんですが、管理職から更にキャリアアップを目指せるようにもしていきたいと考えています。現在では部長が最も高い役職なので。それこそ役員になれるような、そこまで上を目指していけるようにしないといけないと思います。女性管理職に、もっといろいろな経験や難しい仕事に挑戦できる環境を整えたいですね。「さくらさんだから」と言われることもあるのですが、そんなことはありません。そう思う人が少なくなるよう、早い内から機会があればと思います。逆に、「あの人でもできるんだから、私もやりたい」と言うぐらいの仲間が増えてくれたらうれしいですね。
私自身は「女性活躍」という言葉があまり好きではなくて。女性活躍と言う限りは、女性が特別扱いされてしまうと思うので、そういう言葉がなくなるような世界にしていきたいんですよね。それも弊社だけではなく社会全体で。社長ともよく話すんですが、「女性だから○○」ということがなくなることが理想ですね。そのためには、やはり機会を平等に与えることが重要だと思います。「女性だからかわいそう」とやらせないことは問題だと思います。理想の状態を目指す過程で、最初はどうしても、一部特別扱いになってしまうこともありますが、女性を集めて機会を多くつくらないといけないかもしれません。会社や部門を横断してプロジェクトチームを組む際には自然と女性もジョインされますが、部門長職の男女比率は男性の方が多いので、部門長クラスのチーム結成となると男性が多いチームとなります。女性にも機会を与えるためには、部門長ではない人でも能力や希望がある人に任せてみて、その人に機会・きっかけを与える等、工夫して機会をつくりたいです。
個人的にこれから注力したいことは、先ほどお話しした、中期経営計画C&C2026を社内に浸透し、達成することですね。達成できれば、10年後には、弊社の独自技術で市場ニーズを解決することで、社会に貢献できるはずです。そうした本当の意味での達成をしたいですね。達成の先には、人が健康で長生きできる社会に寄与できると思っています。人の寿命の増進は健康が伴ってこそのものだと思っていて。先ほど3つの柱として、「『貼って治す』を世界に届ける」「人類の痛みからの解放」「超高齢社会への貢献」を挙げましたが、痛みとは痛覚だけではなく、心の痛みなども含めて考えています。帝國製薬がビジョンを実現することが、人が健康で長生きできる社会の一助になればうれしいですね。
私自身、キャリアビジョンを明確に描いて入社したわけではなく、とにかく楽しい仕事をしようと考えていました。正直しんどいこともありますが、同じ仕事でも楽しんだ方がうまくいくと思っています。ネガティブだとうまくいくはずのこともうまくいかなくなるので、経営企画室の仲間とはそんな話をしながら、常に笑いを絶やさずに楽しく仕事をしようとしています。これからもそういうマインドで仕事をしていきたいと思っていますね。それは私だけでは難しいので、仲間をどんどん増やして、笑顔を大事にしていきたいです。
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制作:四国経済連合会
取材:一般社団法人四国若者会議
取材場所:本社